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くっつく魚をさがしてみよう!──葛西 9/17
 開園前の水族園。毎日、職員が生き物の状態をチェックするために水槽を見まわりますが、「大洋の航海者サメ」水槽の前では、最近こんな会話がかわされます──「今日は○○はどこにいる?」「見つからないなぁ」「あっ、いた! あそこにくっついている!」。
 職員が話題にしているのは、アカシュモクザメ、ウシバナトビエイなどが泳ぐこの水槽で、2004年7月末から展示している「ナガコバン」というコバンザメのなかま。

 ごぞんじのとおり、コバンザメのなかまは、頭にある吸盤をつかって、カジキ類やサメ類といった大型の海産動物にくっついてくらしています。この興味深い生態を見てもらうために展示を始めたのですが、居場所がどうも定まりません(写真上)。ときにはアカシュモクザメのおなか、ときには頭、なんとクラスパー(おちんちん)にくっついていることもよくあります。さらには、ツマグロやウシバナトビエイに乗りかえることも。また、すがたが見えないので必死にさがすと、水槽の壁にピタッ……。朝、彼(?)をさがすことが職員の日課になってしまいました。

 ところで、コバンザメの吸盤の力はとても強力!だそうです。小判型のヒダと、2列に並んだたくさんのシワ(板状体)を立てて、吸盤内を陰圧にして吸着します。コバンザメにくっつかれた魚の皮膚には、白い擦過傷のような跡が残ることもあり、吸着力の強さがわかります。
 また、サメやエイがくっついたナガコバンをいやがって振り落とすような行動も水槽内で目撃され、くっつかれる側としては、結構迷惑に感じているようです。
 それにしても、大きな魚にくっつけば、自分で泳がなくても遠くまで行けるし、餌のおこぼれももらえるし、敵から身をまもることもできる──なんてかしこい生き方なのでしょう! 吸盤は背びれが変化したものだそうですが、進化の過程でどうやってあんなすばらしい吸盤ができたのか興味深いところです。

 さて、ナガコバンのようにくっついてくらす魚、じつは他にもたくさん水族園で見ることができます。まずは「世界の海」のコーナー、「チリ沿岸」の水槽のウバウオの仲間「ペヘサポ」です(写真下右)。腹びれが変化してできた吸盤を使って水槽の垂直の壁にくっついているのでさがしてみましょう。ペヘサポは、潮の流れの速い潮間帯の岩や海藻にピタっとくっついてくらしています。吸盤は強い波や流れに流されないのに役立ちますね!

 さて、次は、「北海」の水槽の「ランプサッカー」(写真中)。サッカーは英語で吸盤のこと。お腹にある吸盤はとても観察しやすいのじっくり見てみましょう。このランプサッカーと同じ「ダンゴウオ」のなかまの「イボダンゴ」が「北極」の水槽にいます(写真下左)。ランプサッカーもイボダンゴも丸い体で、まさに団子のよう。どう見ても泳ぎがうまそうではない魚ですが、吸盤があれば、体を岩や海藻に固定するのに便利ですね。岩に産みつけた卵を守るときも吸盤は役に立ちます。

 すべてを紹介できませんが、他にも波しぶきがかかるような岩の上でくらす「タマカエルウオ」(この魚にははっきりとした吸盤はありませんが、腹びれと胸びれでたくみにくっつくことができます)や、流れの速い渓流にくらす「ボウズハゼ」などを見ることができます。
 ぜひ、くっつくことでどんな便利なことがあるのか考えてみてください。それぞれがくらしている環境やくらしかたにヒントがあるかもしれません。くっつく暮らしもいいもんだ!    〔東京動物園協会調査係 天野未知〕

・写真上:水槽の壁にくっつくナガコバン。
     頭の吸盤を下にして逆さまになっています。
・写真中:ランプサッカーの吸盤
・写真下左:水槽の壁にピタッとくっつくウバウオの
      なかま、ペヘサポ
・写真下右:イボダンゴ。やはりおなかに腹びれが変
      化してできた吸盤がある

(2004年9月17日)



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