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毒をもつ生物(12)イソギンチャクの毒を利用するヤドカリ
 └─葛西  2010/12/10

 イソギンチャクの触手には毒があります。そのイソギンチャクの毒を利用して自分の身を守るヤドカリがいます。

 ヤドカリは自分にあったサイズの巻貝の殻を利用してくらしています。巻貝の殻は固くて丈夫なので身を守るのに好都合ですが、タコや強い歯を持った魚には通用しません。そこで、殻にイソギンチャクをつけているヤドカリがいるのです。タコは、イソギンチャクが殻に付いていると、毒がこわくてヤドカリに手(足)が出せません。

 イソギンチャクも、一方的に利用されているわけではありません。ヤドカリが歩くとイソギンチャクは引きずられて、モップにゴミがついてくるのような感じで、食べ物が自然にとれるようです。また、ヤドカリは食べ物を細かく刻みながら食べるので、まわりには細かいカスが散乱し、これもイソギンチャクのごはんになるのでしょう。

 イソギンチャクとくらすヤドカリは、イソギンチャクにとても人気があるようです。貝殻には、もうこれ以上くっつく場所がないくらいびっしりとイソギンチャクがついていることがよくあります。飼育下では、ヤドカリが元気で環境に問題がなければ、イソギンチャクがヤドカリを見捨てることはありません。

 成長に伴い、宿となる巻貝を変えるのがヤドカリの宿命です。イソギンチャクは、飼育係の言うことは聞きませんが、ヤドカリの言うことは素直に聞きます。ヤドカリが別の巻貝に引っ越しするときは、脚でイソギンチャクをはがし、新しい宿となる殻に移動させるのです。

 ヤドカリとイソギンチャクの関係は微妙です。特定のヤドカリには特定のイソギンチャクがついています。
 葛西臨海水族園「東京の海」エリアでは、アオリイカといっしょにベニヒモイソギンチャクを殻に付けたソメンヤドカリを展示しています。ベニヒモイソギンチャクの触手には毒があり、ちょっと刺激すると薄紅色の紐のようなものを口やからだから出します。この紐にも毒が仕込まれています。

 水槽内のヤドカリはイカを多少は気にしているようすですが、隠れる場所のない砂底を歩きまわり、水槽の底掃除を頑張っています。

写真:ソメンヤドカリの殻についたベニヒモイソギンチャク。いくつかのイソギンチャクのからだから薄紅色の紐が出ている。右の白いイソギンチャクはヤドカリイソギンチャクという別の種。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 荒井寛〕

(2010年12月10日)



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