ここは葛西臨海水族園「東京の海」エリアの「カニ水槽」です。なにもいない砂の干潟に見えますが、水槽のまえで10秒間じっと動かないでいてください。あるものがゆっくりと現れます。
恐る恐るといったようすで現れたのは、甲羅の幅が1センチメートルほどの小さなカニ「チゴガニ」で、とても臆病です。なぜなら、かれらのすむ干潟には隠れるものがまわりに何もないので、鳥などの外敵におそわれる危険がつねにあるからです。
体の構造も、目が高い位置にあり、いち早く外敵を見つけやすいようになっています。
チゴガニは干潟に直径1センチメートルほどの巣穴を掘り、潮が引いた後に穴から出て来て餌をとったり、繁殖のための活動をはじめます。
干潟に出てきたチゴガニをよく観察すると、左右のハサミを地面から口元まで交互に、頻繁に動かす姿が見られます。これは餌を食べている動作です。チゴガニの餌は、干潟表面にある微小な藻類やデトリタスと呼ばれる生き物の破片など、とても小さなもので、これを砂といっしょにハサミでつまんで口へ運びます。
口の中には常に水があり、軽い餌は、この水の中でこしとられて体内に運ばれます。こしとりには、口内のブラシのような顎脚(がっきゃく:脚が進化したもの)が使われています。
一方、こしとられずに残った重い砂は口の外に出され、口の下方に移動し、次第に大きなかたまりとなります。このかたまりは、ハサミでつままれて地面へ捨てられ、直径5ミリメートル前後の「砂だんご」となり、時間が経つと巣穴の周囲にたくさん積まれます。
カニ水槽の「砂だんご」の正体は、チゴガニの食事のあとなのです。
写真上:砂を口へ運ぶチゴガニ
写真下:口の下にたまっていく「砂だんご」(A)
地面に捨てられた「砂だんご」(B)
〔葛西臨海水族園飼育展示係 田辺信吾〕
(2010年09月10日)
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