2010年5月20日、北海道の登別マリンパークニクスから葛西臨海水族園にサケビクニンという魚が届きました。すぐに世界の海エリア「深海2」の展示水槽に入れてよく見ると、名前に「サケ」とあるとおり、色は薄いサーモンピンクで、全身がゼリーのような半透明をしており、背骨や内臓まで透けて見えるほどです。サケビクニンを含む属が日本語で「コンニャクウオ属」とされているのも、その身体的特徴ゆえかもしれません。
サケビクニンはこの身体をくねくねと左右に打ち振りながら、けっこう速く泳いでいます。顔の下側には細長いひげ状のものをたくさん垂らして、小さな目でぎょろりとこちらを見ている姿は、りっぱなあごひげを生やした仙人のようです。
少し慣れたころに、餌としてオキアミやアマエビの身を与えてみました。すると、仙人らしからぬ大きな口を開けて、ばくばくと勢いよく食べてしまいました。その風貌に似合わず、食事のマナーはあまりよくないようです。
サケビクニンは茨城県、島根県以北の日本沿岸、日本海、オホーツク海などの水深100メートルから600メートル近くの深い海にいる魚です。あごひげのように見えるのは大きな胸鰭(むなびれ)の下側の鰭条(きじょう:ヒレを支える骨のとげ)をつなぐ膜が深く切れ込んで、ばらばらになったものです。
このひげ状の鰭条と口の下側に、人間の舌と同じような働きをする皮膚味蕾(ひふみらい:皮膚上にある味覚器官)があって、触れたものの味がわかるようになっています。そのため、口の下側で水槽の底や壁をなでるようにして餌を探しながら一日中泳ぎまわっています。
深海は暗くて冷たいだけでなく、餌になる生物やその死骸などが少なく、とても厳しい環境なのでしょう。サケビクニンの餌を探す習性も、このような環境の中で作られてきたと考えられます。
ところで、今までのんびりと水槽の隅や壁に広がってしまって見えにくかったエビたち(モロトゲアカエビとイバラモエビ)ですが、サケビクニンを入れたおかげで緊張が走り、身を守るように触角を外に向けて小岩の上に集合するようになりました。このエビたちはさすがにある程度の大きさがあるためか、襲われてはいませんが、緊張感あふれるその姿は一見の価値があります。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 江川紳一郎〕
(2010年06月11日)
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