ニュース
イワトビペンギン幼鳥の「採食訓練」
 └─葛西 2009/12/22

 野生動物の生息環境をすべて再現することは困難です。ところが、鳥類では、ほとんどの行動が本能によっておこなわれるため、飼育下で生まれた子には多くの難問が生じます。

 とくに、ペンギンのように生きた魚を「水の中」で食べる鳥は、野生環境を再現して育てることが難しいので、飼育環境に合うように学習させて育てるしかありません。

 イワトビペンギンは、ペンギンの中でもきちんとプログラムされた本能の働きが非常に強く、訓練が難しい種です。ペンギンへの給餌方法として代表的なのは「ハンドフィーディング」、つまり、餌となる魚を人間が手に持ち、ペンギンにくわえ取らせて食べさせる方法です。しかし、葛西臨海水族園では、この方法を採用していません。飼育個体数が多くて、1羽ずつの給餌が大変だということもありますが、すべてのペンギンが自分の意志で、食べたい量を採食できるようにするためです。餌はプールに入れたり、床の上、あるいは床上のバットの中に置いたりして、ペンギンが自分で魚を食べられるように訓練します。

 訓練にあたって、まず幼鳥を親から離し、ハンドフィーディングで食べられるようにします。そして、床から餌を食べられるように訓練し、群れに戻します。

 この訓練の習得状況は、個体によってじつにさまざまです。何かがきっかけになって新しい行動をおぼえていくのだとは思いますが、そのきっかけは個体ごとに異なるようです。そうした個性と、飼育係員の教え方がうまくかみ合うかどうかが、習得度に大きく影響します。

 また、いっしょに訓練を受けている子どもどうしの影響もかなりあるようです。今年(2009年)は5月末から6月初めの10日以内に生まれた8羽を訓練しました。

 孵化後約3か月での親から離したところ、約1か月後には8羽のうち5羽が、ほぼ同時期に、床に置いた魚を食べられるようになりました。おたがいに競争しながら、行動を身につけていったわけです。

 つづいて2羽が、先行する仲間を手本にして、順次訓練を終えました。しかし、まだハンドフィーディングで餌を食べることもおぼえていない子が1羽だけ取り残されてしまいました。

 じつは、このような事態はときどき見られます。やはり「奥手」の子がいるのです。でも、その後は残った子だけに集中して訓練できるので、今ではハンドフィーディングで食べさせることができるようになりました。

 現在、葛西臨海水族園のペンギン放飼場では、これら8羽全員をすべて見ることができます。今年生まれの子を探してください。頭の黄色い飾り羽と胸の上の黒模様が手がかりです。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 福田道雄〕

(2009年12月22日)



ページトップへ