関東周辺の沿岸では、夏から秋にかけて、サンゴ礁に生息しているスズメダイやチョウチョウウオなどの幼魚が見られます。でも、この魚たちの親を見ることはありません。なぜでしょうか?
この魚たちの親は、もともとの生活場所である南の海で卵を産みます。卵や、孵化した後の子どもたちは、泳ぐことなく、潮の流れや波にのり、浮遊生活を送ります。その一部は、日本列島を北上する「黒潮」という暖かい海流に乗って流されます。
黒潮の流れは、蛇行したり枝分かれしたりとさまざまで、伊豆諸島や本州への流れを作ります。そして子どもたちは、流れ着いた場所で新しい生活を始めます。子どもたちを広い範囲に分散することは、魚にとって、自分の子孫の分布域を拡大できる方法なのです。しかし、冬になるとその姿は見えなくなってしまいます。
この魚たち、もともとは暖かい海の生き物なので、関東沿岸では冬の低い水温に耐えられず、死んでしまうのです。このような魚を「死滅回遊魚」といいます。
ただ今後、温暖化が進んで水温が上がれば、冬でも生き残る魚がいるかもしれません。この魚たちが自然の海で冬を越せるようになったとすると、それは温暖化が進んでいるという地球からの危険信号ともとらえられます。
葛西臨海水族園では、東京の海エリアにある「渚」水槽で、死滅回遊魚の展示をおこなっています。そっとのぞくと、真っ青なソラスズメダイや、黄色が鮮やかなトゲチョウチョウウオが見られます。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 鈴木聡子〕
(2009年12月04日)
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