ニュース
ふしぎな玉、ゴンズイ玉
 └─葛西  2004/05/14

 「ゴンズイ玉」を知っていますか? ゴンズイという魚の群れのことです。名前の由来は、実物を見れば一目瞭然! 水族園の「なぎさ」の水槽をのぞいてみましょう。岩のまわりや海底近くに、なにやらうごめく黒いかたまりが……。大きくなったり、しぼんだり、まるくなったり、細長くなったり、アメーバのようにかたちを変えるふしぎな玉が、ゴンズイ玉です。

 同じ魚の群れでも、たとえばイワシの群れとはずいぶんとようすが違います(「東京の海」のコーナー、「東京湾の漁業」でイワシの群れを見ることができます)。整然と等間隔に並び、同じ方向へ泳ぐイワシにくらべ、ゴンズイたちはおたがいに体を接触させ、押し合いへし合い、押しくらまんじゅうのような濃密な群れをつくります。まさに「玉」という言葉がぴったりですね。

 なぜゴンズイは玉のような群れをつくるのでしょう? 一般的に群れの利点としていわれているのは、同じ大きさ、同じかたちの魚が群れていると、捕食者はねらいを定めにくいということです。

 みなさんもゴンズイ玉の中の一匹にねらいを定めて、どれぐらい目で追いかけられるかチャレンジしてみてください。玉をつくっているゴンズイは、みんな同じ大きさ、同じ色、同じかたち、同じ顔。目印でもつけないかぎり、なかなか難しいでしょう。ゴンズイ玉のような密集した群れでは、なおさら簡単ではありません。

 さらに、ゴンズイは背びれと胸びれに毒をもっています。つまりゴンズイ玉は、たくさんの毒棘をもった毒ボール。食べたら痛そう……。みんなで集まれば武器の効果もアップすることでしょう。

 また、私は海中でゴンズイ玉に出会い、ギョッとしたことが何度かあります。岩影や海藻のあいだで見るゴンズイ玉は、一瞬不気味な一匹の黒い生き物のように見えるのです。夜間に港で、大きなゴンズイが真っ黒な大玉をつくっているのを見ることができますが、これも知らない人が見たらきっと逃げ出したくなるでしょう。実際に捕食者にどれぐらい効果があるのかは謎ですが、玉は「一匹の大きな生き物」に見せて身を守る効果もあるのかもしれません。

 じつは、魚が群れる理由についてはさまざまな説があり、実証が難しいこともあって、答えるのは簡単ではありません。ゴンズイが玉のような濃密な群れをつくる理由も、本当のところはよくわかっていないのです。体をすりよせあっているすがたは、単純に「みんなでいればこわくない」という感じがしますが……。みなさんも、ぜひふしぎな玉の利点を考えてみてください。

〔東京動物園協会調査係 天野未知〕

(2004年05月14日)



ページトップへ