2009年7月20日、上野動物園の子ども動物園にいるトカラ馬の琥太郎が、訓練のために、岩手県遠野市にある「遠野馬の里」に出発しました(「遠野馬の里」は、競走馬や乗用馬の育成調教、乗用馬の繁殖、乗用馬とのふれあい活動などを目的として、社団法人遠野市畜産振興公社が運営する施設です。)
生後8か月で動物園に来た琥太郎は、人間とくらしていくために必要なことを何ひとつ知りませんでした。馬にとってとても大事なひづめの手入れのためには、人間のそばで足をあげなければいけませんし、健康管理のためには、体温測定をされたり体を触られたりすることに慣れていなければいけません。琥太郎には、こうした基本をゆっくりと教えていきました。
その後、初期の「馴致」(じゅんち:人との生活に馴らすこと)も終わり、訓練は次のステージに入りました。それは、鞍を背中につけ、人や荷物を運ぶ訓練です。琥太郎もすでに2歳。おとなの体に近づいた今、訓練にはもってこいの時期です。
しかし動物園には、訓練のための施設や道具、そして技術がありません。そこで、訓練に適した施設と技術者のいる遠野馬の里でみっちり教え込むことにしました。琥太郎出発の数日後、飼育担当者も遠野馬の里へ向かい、琥太郎の訓練をしながら訓練技術の習得に努めました。
遠野での琥太郎はというと、「借りてきた猫」とはこのことか?というくらいおとなしく、動物園でのやんちゃっぷりは、微塵も見られませんでした。初めのうちは少しやんちゃな態度を見せていたようですが、馬の訓練のプロの前ではかなわない……と悟ったのでしょう。
こうして琥太郎はおとなしくなり、日々のんびりと、ゆったりとした時間を過ごしていたようです。また訓練も着実に進み、担当者が遠野に行ったころには、すでに人を背に乗せて走っていました。思わず「琥太郎……馬だな~」とつぶやいてしまいました。そして担当者も琥太郎に乗り、ドキドキ緊張しながらも、琥太郎から降りた後、なんとも言えない、すがすがしさを感じました。
そして8月24日の深夜2時ごろ、遠野から上野に琥太郎が帰ってきました。とても元気なようすで、岩手からの道中もずっとおとなしくしていたとのことです。トラックから降りるとき、少し驚いて走ってしまいましたが、そのまますんなり部屋に入りました。
数日間の健康診断を経て、異状のないことが確認された8月28日、他の2頭がいる子ども動物園の運動場に戻りました。初めは木曽馬の「幸泉号」と野間馬の「えりか」に警戒され、追い立てられたりしていましたが、やがて落ち着き、以前のような3頭の関係に戻りました。今後の琥太郎の成長が楽しみですね。ぜひみなさんも、一回り成長した琥太郎を見に来てください!!
写真上:琥太郎、岩手に出発(2009年07月20日)
写真中:遠野馬の里で訓練中の琥太郎
写真下:上野動物園に無事帰還(2009年08月24日)
〔上野動物園子ども動物園係 橋川真弓〕
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