梅雨入りを予感させる、やんわりとした小雨の降る2009年6月6日の朝、キリンのメス「ナエ」が静かに息を引き取りました。約24年5か月の生涯でした。
「キリンの寿命はどのくらいですか?」という質問をよく受けますが、「飼育下では20~25年です」とお答えしています。まさにナエは寿命をまっとうしたのです。
私が初めてナエと出会ったのは、8年前。ナエは16歳でした。少し老いが見え始めたころでしたが、それでも健康そうで体の立派な大人のキリンでした。それでも当時の群れにはナエより年上の個体が3頭いて、体格もナエより大きかったため、ナエはあまり目立たない存在でした。それでも、ナエの右肩にある大きなキズのおかげで、すぐに見分けられたのをよく覚えています。
ナエはとても穏やかな性格だったので、常に群れの安定に貢献してくれました。また、新しい個体が来園して群れに入るまで、ナエを仮母として同居させることで、群れとの橋渡し役として活躍してもらいました。
キリンは群れで生活する動物ですから、1頭だけになると不安定になることがあります。そういうときに同居させる個体を群れの中から選ぶのですが、どの個体でもいいわけではなく、落ち着きのある個体を選ばなくてはなりません。ナエは適役でした。
話は少し戻りますが、先輩キリン3頭が死亡し、ナエが20歳になる前の2004年の5月ごろから歩き方がぎこちなくなり、徐々に跛行を繰り返すようになりました。昨年(2008年)8月ごろからずっと跛行の状態が続き、今年の5月に入ると歩くのをいやがり、群れから離れた場所で動かずに過ごす時間が増えました。最後の1週間ほどは歩くことも座ることもままならぬ状態で、えさもほとんど食べない状況が続き、最後は力尽きるようにして倒れ、苦しむことなく、そのまま息を引き取りました。
多摩動物公園のアフリカ園サバンナでは、今まで 180頭以上のキリンを飼育してきました。その中で最長寿の個体は、29歳10か月で生きたナエの母親「ナガエ」です。母親に恥じぬほど長生きしたナエと過ごすことができた8年間に感謝しつつ、安らかに眠ってくれることを願っています。
〔多摩動物公園北園飼育展示係 清水勲〕
(2009年07月03日)
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