多摩動物公園では、現在3羽のインドクジャクを園内で放し飼いにしています。インドクジャクは、繁殖期(3月~6月ころ)になると尾羽が伸び始め、みなさんご存知の美しい扇形の尾羽を広げては、求愛のダンスをします。
3羽のうち1羽は、アジア園のスイギュウ舎の屋根の上がお気に入りで、午後になると、多くの時間をそこですごし、ときおり尾羽を広げています。そのようすは非常に美しく、来園者にも大好評。しかし、そのかげで割を食っている動物がいるのです。
それは、ヒマラヤタール。飼育している動物園も少なく、意外に貴重な存在なのですが、若干知名度が低く、展示場も見えにくい位置にあるのが難点で、チラッと見るだけで通り過ぎてしまう方も多くいます。
このように、ふだんから目立たないヒマラヤタールですが、インドクジャクが尾羽を広げる時期には、さらに悲しいことに。午後になると、オランウータン方面から正門に向けておりてくるお客さんが増えてきます。しかし、オランウータン方面からくだってくると、動物舎の位置関係(写真中上)のせいで、ちょうどムフロン舎のはずれまで来たときに、羽を広げるインドクジャクを発見してしまいます。そうすると、お客さんはスイギュウ舎に駆け寄り、ヒマラヤタールの存在に気がつかないのです。そして、そのままインドサイやコアラ方面に去って行ってしまいます。振り向けば、そこはヒマラヤタール舎なのですが……。
午後、ヒマラヤタール放飼場の掃除をしていると、インドクジャクを見つけた来園者の方が歓声をあげるのをよく耳にします。クジャクに気がついた瞬間、「クジャクが羽を広げてるよ!」と叫びながら駆け寄っていく子どもたちも数知れず。そんなクジャクの人気をちょっと悔しく思いながらヒマラヤタールに目をやると、乾草をモグモグ食べています。小さなことにとらわれているのは、飼育係だけなのかもしれません。
インドクジャクの尾羽も7月には抜けはじめ、地味なすがたに変身します。そうすれば、ヒマラヤタールを見ていただける方も増えてくれることでしょう。きっと……。
写真上から:
・尾羽を広げるクジャク
・ヒマラヤタール付近の位置関係図
・ヒマラヤタール放飼場からスイギュウ舎をのぞむ
・ヒマラヤタール(メス)
〔多摩動物公園南園飼育展示係 大橋直哉〕
(2009年06月26日)
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