現在、井の頭自然文化園分園のオシドリ展示場前では、来園者から「かわいい!」の声が毎日聞こえています。なぜでしょう? たしかにオシドリのオスは地味なメスにくらべると、「繁殖羽」と呼ばれているきれいな羽に身を包んでいるので、今までも「かわいい!」はもちろん、「置物みたい!」「きれいねぇ」などなどという声が聞こえていました。しかし、最近この「かわいい!」の座をオスたちから奪ったものがいます。
その正体は、2009年5月29日、6月1日、4日に孵化したひなたちです。展示場には21個の巣箱が設置されていますが、メスは毎年、お気に入りの巣箱をこの中から選んで産卵し、採餌・排泄するとき以外は抱卵にいそしみます。だいたい1羽あたり10~14卵ぐらい産むのですが、今年はひとつの巣箱に2羽共同で使用し、30卵も入っていた巣箱も見られました。
卵は抱卵後、約28日で孵化します。巣箱は地面から約 1.6メートルの高さにあるのですが、ひなたちは孵化した翌日には巣箱から飛び出し、親鳥のあとをついて歩きます。手のひらにすっぽり入ってしまうほど小さい体ですが、すぐ自力で採餌も泳ぐこともできます(このような成長を「早成性」と言います)。
親鳥のあとを必死の追いかける姿はかわいらしく、飼育担当の私も「かわいいなあ」とつぶやいてしまいます。しかし、ここで問題が。親鳥とそのひながいつもいっしょにいてくれればよいのですが、好奇心いっぱいのひなたちはじっとしていません。展示場内を所狭しと歩き回り、しかも、同じ日に3個の巣箱から出てきたため、親と子はおたがいに自分の子、自分の親の区別がつかないのか、親子の入れ替わりが頻繁に見られるのです。毎日、ひなの羽数をチェックしている身としては悩みの種です。
展示場にはまだ抱卵している巣箱がいくつかあるので、ひなはまだまだ増えそうです。現在のひなの数はというと……それは秘密です。今しか見られない、かわいい盛りのひなたちにぜひ会いに来て、実際に数えてみてくださいね。
〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 川手美咲〕
(2009年06月12日)
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