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チンパンジーと飼育係新人の私
 └─多摩  2009/05/23

 2009年4月4日、私は念願だった飼育係としてデビューしました。担当する動物はチンパンジー。楽しみと不安な気持ちの中、初日を迎えました。

 多摩動物公園には現在、21頭のチンパンジーがくらしています。その顔と名前を一致させるのも大変でしたが、私が一番苦労しているのは「馴致」(じゅんち)という作業です。チンパンジーでの馴致作業とは、一頭ずつそれぞれの部屋の前であいさつをしてから格子ごしに握手をしたり、チンパンジーの体を触ったりすることです。これは、コミュニケーションを通じて彼らと信頼関係を築くことで、握手をして発熱していないか確かめ、体に触れて傷の有無を調べ、メスのおしりを触って発情の状態を確認することができる大切な作業です。

 初日は先輩の馴致作業を見せてもらいました。「握手」と言うと、チンパンジーはさっと手を出し、「夜具を持ってきて」と言うと、寝るときに使う麻の布を格子の間から出してくるのです。なんて頭がいいのだろう。とあらためて思いました。でも、飼育係ならだれでもうまく馴致ができるわけではありません。頭のいい彼らは、人を見わけて態度を変えてくるのです。

 実際、新人の私がいくら呼んでもこちらに来ないし、部屋の奥に横たわったまま寝たふりをされてしまう始末です。近くに来たとしても、握手をしようとすると、すっと手をずらしてひっかいてきたり、唾をかけられたりすることもあります。麻の布をもらおうとしても、引っ張り返されたり、端を足で踏んで取れないようにされたり、なかなか思うようにいきません。

 けれども、先輩が来ると態度を一転! 「私はちゃんとやっています」とばかりにすぐ格子の近くに来るのです。そんな彼らのふるまいに、悔しいやら悲しいやら……。「もう、いじわる!」と叫んでしまいたくなることも……。

 しかし、私だって知らない人に命令されたり、自分の持ち物を渡すのはいやです。それはチンパンジーも同じこと。まずは、私という存在を知ってもらって、信頼してもらうことが大切だと思い、焦らず謙虚な気持ちで彼らと接するように心がけています。

 それから約2か月。まだまだ信頼関係は十分ではなく、いじわるをされることもよくあります。しかし、彼らの性格もわかってきて、それぞれに合わせた接し方をすることで、少しずつですが距離は近づいていると思っています。

 私とチンパンジーとの関係は、まだまだ始まったばかり。毎日彼らの態度に一喜一憂しながら、さまざまなことを学び、チンパンジーの飼育係として成長していこうと思っています。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 東川上 純〕

(2009年05月23日)



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