上野動物園西園の小獣館では、ケープハイラックスの雌雄ペア、そして、そのあいだに生まれたメス、計3頭を飼育しています。2009年1月16日、ちょっと早い繁殖期に入りました。
繁殖期に入ったといっても、気があるのはオス親だけ。オス親はメス親に対して、「危ないことはしないから……」とでもいうように、お尻から近づいていくのですが、メス親にはまだその気がないらしく、オスが後ろから乗りかかって交尾姿勢をとると激しく威嚇してきます。
威嚇されてもオスは引かないため、最終的にはメスを追いかけまわしてしまいます。激しいときは娘も巻き込み、オス親VSメス親&娘という構図になり、最後にはオス親があきらめます。
今年もオス親がメス親を追いかけ始めたな、と思いながら、小獣館の昼の巡回をしていたときです。目に飛び込んで来たのはオス親の背中でした。「オスの背中が盛り上がって、しかもハゲてるっ!!」。たまに興奮しすぎることがあるので、あのするどい牙でおたがいにケガでもしないかと心配になるのですが、このときは、「ついにメスの逆襲に合い、背中にケガを負ってしまったか?!」と思いました。
しかし、見ていると、毛のないところのまわりの毛が立ったり寝たり、動いています。他の飼育係に尋ねても、「そんな行動は見たことがない」との返事でした。調べてみると、ケープハイラックスの背中には臭腺という特別な臭いを出す穴があり、毛を立てて臭腺を露出させることによって、臭いによる重要なコミュニケーションをとるようです。ケガではなくて一安心しました。
毛が立つのは、興奮している10秒間程度。頻度が高いときには、これが約5分おきに起こります。
よく観察すると、背中の一部に毛がないことがわかりますが、ふだんはまわりの毛によって隠されています。毛が立つと臭腺が露出するのですが、毛が寝てしまうと、いつもどおりのようすです。
繁殖期を迎えた今、その臭腺から黄色い液が出ています。おそらくこの液の臭いがオスの繁殖期のサインで、メスがこの臭いに気づいて応えると、交尾が見られるものと思います。
このぎこちないドタバタ騒ぎの中でケガをするのではないかと、今はハラハラしながら見守っているのですが、この時期をうまく越えれば、今年の秋ごろには赤ちゃんを見られることでしょう。赤ちゃんの誕生を期待して、今後もケープハイラックスの観察を続けるつもりです。
なお、私のいちばんの関心は、オスの背中の臭いです……。一度はぜひとも嗅いでみたいと思っています。
写真上:ふだんのケープハイラックス
写真下:毛が立ち、背中の臭腺が露出している
〔上野動物園飼育展示係 藤岡紘〕
(2009年01月30日)
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