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アフリカゾウのトレーニング
 └─多摩  2008/11/07

 多摩動物公園のアフリカゾウ班は、毎朝、ゾウの「ターゲットトレーニング」をおこなっています。

 ターゲットトレーニングとは、耳なれない言葉だと思います。これは、専門的にいうと、「オペラント条件づけを用いた、ターゲットによるコントロール」のこと。「ターゲット棒」とよばれる目標物と、人間の声を使います。たとえば、人間が「アシ」や「ミミ」という指示を口頭であたえ、対象となるゾウの体の部位を棒で指し示します。ゾウがその部位をこちらに寄せてきたら、ごほうびとして、おいしいえさをあたえます。こうした学習のさせ方を「オペラント条件づけ」(「道具的条件づけ」とも)といい、学習の結果、棒と口頭での指示によって、ゾウの動きをコントロールすることができるようになります。かなりはしょった説明ですが、くわしく解説すると紙面が足りなくなってしまうので、詳細はまたの機会にしましょう。

 ターゲットトレーニングは、ゾウの体のケアや採血などが目的です。ゾウの皮膚は頑丈そうに見えますが、意外にも、耳や爪先などは私たちヒトと同じく繊細です。そのため、冬になって空気が乾燥すると皮膚が荒れ、ささくれたりすることがあります。それを防ぐために、冬になると耳や足などの荒れやすい部分にオリーブオイルを塗ってやって、保護します。人間でいえば、ハンドクリームを塗るようなものですね。

 しかし、ゾウを相手にして、だれでも最初からこのようなトレーニングやケアがうまくできるかというと、そうではありません。私がゾウ担当になり、トレーニングを始めた当初、ゾウにほとんど相手にされませんでした。

 ゾウはとても知能が高い動物で、担当者を識別し、担当者の状況をよく見ています。私たち飼育係は、ゾウに接する際はつねに安定した気持ちで話しかけ、号令のイントネーションなどにも気をつかいます。ゾウは声のトーンで人間の気分や心の状態までも見抜いてしまうといわれているからです。

 人間どうしでも、初対面でいきなり相手の体に触ることはなかなかできませんよね。それとまったく同じで、飼育担当がゾウと信頼関係を築きあげるには、長い時間と毎日の会話の積み重ねが必要なのです。

 「千里の道も一歩から」という言葉のように、これからも、アフリカゾウとよりよい関係を目指し、じっくりとがんばっていきたいと思います。

写真上:トレーニングは2名でおこないます
写真下:足を台に乗せ、異常の有無をチェック

〔多摩動物公園北園飼育展示係 山口翔平〕

(2008年11月07日)



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