ニュース
リンリン闘病記
 └─2008/05/02

 2008年4月30日未明、ジャイアントパンダのオス「リンリン」は22年7か月の生涯を閉じました。

 2003年12月3日、メキシコからお嫁さんシュアンシュアンが来園。その後、2005年9月26日にシュアンシュアンは帰国しました。1985年9月5日生まれのリンリンは、20歳の大台を超えたころから、年齢による行動の変化が見られるようになりました。食欲が徐々に減り、食べ方もゆっくりになっていきました。

 毎日おこなっている尿検査や体重測定をもとに、食事の内容や量をこまめに調節しながら、体調管理をつづけたところ、リンリンはしばらくベスト体重をキープし、経過も順調のようすで、来園者の方々にも愛くるしいすがたを見せてくれていたのでした。

 そんなリンリンに変化が見られたのは、2007年の夏でした。7月中旬から竹を食べる量が少なくなり、午後の食事もすぐには食べない日がつづきました。翌朝には食べおえているのですが、それまで食べていたリンゴはまったく口にしなくなりました。

 こうした状態が1か月ほどつづいたある日、リンリンのあごの下が少しふくらんでいたのです。食事に薬をまぜてあたえたところ、いったん症状は消えました。ところが数日後に再発。同様の投薬をこころみましたが、腫れはなかなかおさまりませんでした。

 私たちは文献をあたり、尿検査の結果や、過去のジャイアントパンダの事例をもとに、「慢性心不全」との診断をくだしました。リンリンの回復をはかるため、これまでと同様、食事に薬をまぜたのですが、多くの薬は苦いものです。ところが、苦いのが大嫌いなリンリン。そこで、好物のナツメに薬をしのばせ、また、確実に食べてもあおうと、手渡しであたえました。

 最初のうちはうまく食べてくれていたのですが、薬の種類が増えたことにくわえ、苦さに気づいてしまい、ナツメを食べなくなってしまいました。それからはリンリンと飼育係、獣医師の知恵比べの毎日となりました。錠剤を細かくくだいたり、薬をカプセルに入れてからナツメにしこんだり……。ナツメがだめならサトウキビに入れてみたり……。試行錯誤の結果、サトウキビにしこむことで、確実に投薬できるようになりました。

 その後、食欲は回復しましたが、年齢相応の衰えも見られるようになり、病状も少しずつ進行していきました。とはいえ、食欲や行動には大きな変化はなく、落ちついた日々を過ごしていたのです。

 しかし、4月中旬から食欲と行動量が急激に落ちていきました。餌による投薬もできなくなってしまい、展示を中止して吹き矢による投薬治療をおこないました。一時はタケノコを食べる食欲も見せ、回復のきざしも見られたのですが、それもつかの間、最期は静かに息を引き取りました。

 リンリンは、上野動物園で飼育してきたジャイアントパンダの中で3番目の長寿でした。ここまで長生きできたのも、ジャイアントパンダ初来日以来、飼育を通じて蓄積された技術や知識、先人の残した記録や資料、そして暖かく見守ってくださった来園者の方々や、支援をいただいたみなさんのおかげです。ありがとうございました。

〔上野動物園東園飼育展示係 倉持浩〕

(2008年05月02日)



ページトップへ