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サトウキビには勝てないよ──アジアゾウの訓練
 └─2008/01/04

 午前8時30分、アジアゾウ舎で一日の作業が始まります。油圧式の大きな扉を開けると、ゾウたちの体温で暖められた生暖かい空気が室内から外へ、冷たい外気の中に流れ出します。人数分の一輪車を用意し、各人はシャベルと竹ぼうきを持って作業開始!

 最初にメスの部屋を掃除します。多摩動物公園のアフリカゾウ舎はゾウをすべて外に出してから掃除にとりかかりますが、上野動物園のアジアゾウ舎では、ゾウが室内にいるままで作業をすすめます。

 大量の糞や食べかすを竹ぼうきで集め、スコップで拾って、一輪車で運搬。動物舎だけでなく、ゾウの体も掃除します。そのために、まず「座る」の号令で座らせて、「テレー」の声で体を横にさせてから、背中を掃いてやります。つづいて、「前へ」の号令で起こしてから、「足」の号令で足を上げさせ、足の裏をきれいに掃除。

 最初に室外に出るのはオスのアティですが、運動場に出る前に訓練をおこないます。柵ごしに号令だけで前進や後退をさせたり、寝かせたりするのですが、号令どおりにできたら、ごほうびにパンやバナナを与えます。つづいて、柵ごしに足を出させる訓練に取りかかります。ちゃんと足を出したら、バナナがごほうび。決して叱ることはしません。ごほうびは、いちばん大好きな食べ物です。

 この訓練が終わったらアティは運動場へ。オスの後はメスを決まった順番で運動場に出してから、雌雄それぞれに訓練をおこない、おやつのペレットを食べさせると開園時間(9時30分)です。

 運動場では、おやつの青草を何度か与え、午後3時半ごろ部屋に戻します。このときも、号令で体を横にさせ、背中を掃いてやってから部屋に入れます。まずメスを入れ、それからアティ。部屋に入れたらすぐ、号令で足を出させる訓練をおこないます。ところが、ある日、アティが号令にしたがいません。何度やっても結果は同じです。いぶかしんでいると、号令をかけていた係員が、アティが夢中になって食べているものを指さして、「サトウキビには勝てないよ」と言いました。

 たしかにサトウキビを購入しているとは聞いていました。そのサトウキビが、この日は餌に加わっていたのです。訓練のごほうびは、いちばんの好物にすべきなのですが、そのごほうびよりも美味しいものが近くにあれば、訓練は成り立ちません。

 その後、訓練が終わってからサトウキビを食べさせるようにしたのですが、アティは訓練もそこそこに、サトウキビがもらえる場所で待つようになったのでした。

〔上野動物園子ども動物園係長 高藤彰〕

(2008年01月04日)



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