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2021年10月29日は「世界キツネザルの日」です
 └─ 2021/10/29(11/01更新)
 IUCN(世界自然保護連合)霊長類専門家グループによるマダガスカルプロジェクト「Lemur Conservation Network」は、キツネザルをより多くの方に知っていただき、その保全を進めるため、10月の最後の金曜日を「世界キツネザルの日」と定めています。

 上野動物園でも、クロシロエリマキキツネザル、クロキツネザル、ワオキツネザル、ハイイロジェントルキツネザルの4種のキツネザルを飼育しています。

 今日から4日間にわたり、上野動物園のキツネザルをご紹介しながら、その魅力や野生における状況についてお伝えします。

1.多種多様なキツネザル
 キツネザルはアフリカのマダガスカル島にのみ生息する原始的なサルのなかまで、100種以上おり、世界のサルのなかまの約5分の1を占めています。

 主に鼻づらが前に突き出し、耳も立っているため、その名のとおりキツネに似た顔をしています。また、多くの種が長い尾を持ち、その尾でバランスを取りながら、高い木々の上を移動して生活しています。

 同じキツネザルのなかまでも、その姿やくらしぶりはさまざまです。

 たとえば、当園のハイイロジェントルキツネザルは体重が600g程度、ワオキツネザルやクロキツネザルは2kg程度、クロシロエリマキキツネザルは3~4kg程度と体格にも違いがあります。そして多くの種が雌雄同色ですが、クロキツネザルは雌雄で色が異なります。

 また、子育て方法も種によって違います。クロシロエリマキキツネザルは繁殖時に巣を利用します。母親は巣内に子どもを置いたまま採食などのために移動し、授乳のときだけ巣に戻ります。


巣内で母親の帰りを待つクロシロエリマキキツネザルの子ども
(撮影日:2015年4月27日)

 一方、クロキツネザルやワオキツネザルは、子どもをお腹に抱いた状態で子育てをします。しかし、子どもの抱き方は2種で異なり、クロキツネザルは腹巻きのように横向きに子どもを抱きますが、ワオキツネザルは縦向きに抱きます。

 まさに「多種多様」なのです。

横向きに抱かれているクロキツネザルの子ども
(撮影日:2018年6月21日)
縦向きに抱かれているワオキツネザルの子ども
(撮影日:2014年3月24日)

2.野生のキツネザル
 キツネザルの生息地であるマダガスカル島は、ゴンドワナ超大陸の分裂にともない、他の大陸から分断された島です。大陸との生き物の往来が少ない状態が長く保たれてきたため、島内の生態系を構成する生き物たちが独特の進化をとげており、生物多様性という意味においてとても重要な場所となっています。

 多くのキツネザルは、森のなかを移動しながら果実を食べますが、種子が消化されずにフンに混ざって排出され、その種子が発芽することがあります。これにより、植物は新たな場所に子孫を残すことができます。

 キツネザルは、マダガスカルの森を育てる重要な役割も果たしているのです。


当園にてクロシロエリマキキツネザルのフンから発芽したと思われるトマト
(撮影日:2021年7月26日)

 近年では、野生のキツネザルのうち約96%の種が絶滅の危機に直面していると言われています。森林伐採や鉱山開発などによる、生息地の破壊が原因と考えられています。

 上野動物園では、マダガスカルで自然保護活動をおこなう団体「Madagascar Fauna and Flora Group」のメンバーとなり、現地での活動を支援するとともに、動物園でのキツネザルの飼育・繁殖、そして人々への普及啓発にも取り組んでいます。

3.上野動物園のキツネザル
(1)種も越える? コミュニケーション
 上野動物園では、ワオキツネザルを不忍池に浮かぶ島と橋を渡った先にある動物舎の2ヵ所で、またクロシロエリマキキツネザルも2ヵ所の動物舎で飼育しています。

 島のワオキツネザルが鳴くと、別の場所のワオキツネザルが合いの手を打つように鳴くことがあります。クロシロエリマキキツネザルも同様に、1頭の第一声に続いて、同じ施設内や別の場所のいろいろな個体が鳴き出します。生活場所が離れていても、風で流れてくるにおいを感じたり、いる場所によって一時的に姿が見えたりすることもあるため、互いの存在を把握しており、コミュニケーションをとっているのでしょう。

 時折、どこかの誰かが警戒鳴きを始めると、それをきっかけに、ワオキツネザルもクロシロエリマキキツネザルもいっせいに鳴きだし、「アイアイのすむ森」全体で大合唱になることがあります。思わず耳を塞ぎたくなるほどの大きな声ですが、目を閉じて聞いてみると、まるでマダガスカルの森の中にいる気分を味わえるかもしれません。

(2)キツネザルたちの近況
 健康チェックなどがスムーズにできるように、「ハズバンダリ−トレーニング」を取り入れて飼育管理をしています。これは、動物に「飼育係の望む行動をしたらいいことが起きる」ということを繰り返し教えていき、結果的に飼育係の指示にしたがって動物が自発的に動くようになる訓練です。これにより、動物にかかる負担が軽減されます。

 現在までに、飼育している4種のキツネザルすべてで体重測定ができるようになり、日々の健康管理や子どもの成長の把握、高齢個体のケアにも役立っています。

クロキツネザルの親子の体重測定
(撮影日:2021年6月28日)
ワオキツネザルの体重測定
(撮影日:2021年8月14日)
ハイイロジェントルキツネザルの
体重測定
(撮影日:2021年9月6日)

 今年、ハイイロジェントルキツネザルに箱に入るトレーニングを実施しました。これまで、治療の必要があるときや部屋の整備の際には網で追いかけて捕獲をしていましたが、神経質な個体なので捕獲後しばらく警戒が続き、職員がいると上から降りてこなくなることもありました。また高齢でもあるため、できるだけ負担を減らすためにこのトレーニングをはじめました。

 最初は、もっとも好きなえさは何かを確認することから始めます。好きな順番も把握し、それらをごほうびとして用います。次に、部屋のなかに箱を置き、それが怖いものではないことを教えます。その後は段階を踏みながら、少しずつ動物を箱に近づけて、箱に入るまで誘導します。通常のえさも箱に入れて与え、そのなかで食べることにも慣らします。箱に入るようになったら、網越しに飼育係からえさを受け取る練習を繰り返します。

 このように何段階ものステップを少しずつ乗り越え、現在では進んで箱に入るようになりました。箱に入るトレーニングはクロシロエリマキキツネザル、ワオキツネザルでも始めています。


ハイイロジェントルキツネザルのトレーニングのようす
(撮影日:2021年9月14日)

 今後も、1頭1頭の状態に合わせてハズバンダリートレーニングを取り入れながら、キツネザルの繁殖や飼育管理によりいっそう努めていきます。

 今年の「世界キツネザルの日」は、上野動物園のキツネザルのくらしを通して野生のキツネザルにも思いを馳せていただける日になればと思います。

〔上野動物園西園飼育展示係 宇野〕

(2021年10月29日)
(2021年10月30日:「2.野生のキツネザル」を追記)
(2021年10月31日:「3.上野動物園のキツネザル」(1)を追記)
(2021年11月01日:「3.上野動物園のキツネザル」(2)を追記)



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