8月12日は
「世界ゾウの日」です。「世界ゾウの日」とは、2012年8月12日に、カナダの映画監督Patricia Sims氏とタイの保護団体(
Elephant Reintroduction Foundation)により設立された、世界中でゾウの保護を呼びかける日です。
上野動物園では2016年からこの取組みに賛同し、野生のゾウを取り巻く現状や保護について取り上げ、夜間開園にあわせてイベントや普及啓発を実施してきました。2020年は新型コロナウイルスの流行に伴い、以前のようなイベントを実施することができませんでしたが、インターネットを通じて
動画や記事を配信しました。
今年2021年も参加者を募ってのイベント実施は難しい状況にあるため、インターネット上での普及啓発を実施することとしました。
東京ズーネットYouTubeチャンネルでは8月9日から12日まで、一日1本の特別な動画を配信していますので、あわせてご覧いただければと思います。
前編ではアルンの誕生と成長、動物園でのゾウ飼育の展望をご紹介しましたが、後編では今後のゾウ飼育についてお話ししたいと思います。
2021年5月からゾウ舎の放飼場工事が始まり、ゾウを外に出せない期間となりました。準間接飼育に切り替えるための改修工事です(詳しくは
こちらのページ)。これまで、上野動物園では「アティ」(オス)を除いて「直接飼育」というゾウと係員を隔てるものがない状態で体のケアなどをおこなう飼育管理方法をとっていました。それに対して「準間接飼育」はゾウと係員を柵などで隔て、同じ空間に入ることなく柵越しにトレーニングをして飼育管理をする方法です。今後、放飼場の後に室内にも改修を施し、工事が完了ししだい、飼育管理方法を切り替えていくことになります。
世界的にも、柵越しで係員の安全を確保したうえでゾウの健康管理を含めた管理をおこなう方法が主流となりつつあり、事故の危険を少なくしながら、ゾウにとってよりよい飼育方法が常に模索されています。上野動物園でも以前から計画されていた方針が形になるときがやってきました。ゾウ舎そのものはこれまでと変わりません。飼育方法ごとに最適な施設を新たに建設することが理想ですが、動物舎の建て替えには莫大なコストがかかり、長期的な計画のもとに更新されるため、今回は改修工事での対応となります。今後得られる知見をもとに、将来的なゾウ舎設計に役立てていきたいと思います。
「スーリヤ」と「ウタイ」は上野動物園に来園してからずっと直接飼育で管理してきました。これまでは人がすぐそばまで来ていましたが、工事完了後は状態が変化するので、最初はとまどうかもしれません。ゾウは高度な知能を持つ動物ですので、精神的に不安定になることもあります。注意深く観察しながら進めていかなければと感じています。
一方、今は行動の抑制が難しい「アルン」にも、体や足のケアなどをできるようにトレーニングしていく予定です。オスのゾウは成熟するとマストと呼ばれる行動が荒くなる特有の周期を発現しますので、そういったときにも危険なく飼育管理できるようにすることが求められます。
また、ゾウの人工授精をするときに備えてオスの精液を採取するためのトレーニングを若いころからできるようにすることが今後必要になると考えられます。繁殖のためにゾウを他の園館に移動させることが現在は一般的ですが、移動にかかるコストやゾウへのストレスなども、今後はよりシビアに考える必要が出てくるでしょう。ゾウは10歳前後で性成熟を迎えますので、あと十数年後にアルンが有望なオスとして国内のアジアゾウを維持、発展することに寄与できるよう、これから私たちもともにがんばっていきたいと思います。
国内で飼育されているゾウは少子高齢化が進み、このままのペースでいけば将来的には動物園から姿を消す予測が出ています。しかし、ただやみくもに飼育・繁殖をめざせばよいというわけではありません。近年さらなる高まりを見せる動物福祉へのいっそうの配慮が求められ、ゾウにとってよりよい飼育環境の構築や整備が求められるからです。
これからも動物園ですこやかなゾウが見られるよう、そして、そこから野生のゾウに想いをはせる機会を失くさないため、先を見据えて一歩ずつ着実に、飼育環境の向上に取り組んでまいります。
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(2021年08月12日)