2021年5月26日は
「世界カワウソの日」。これは「国際カワウソ保護基金」(International Otter Survival Fund)がカワウソ類の保全をよびかけるために定めた日です。
コツメカワウソ
世界には13種類のカワウソが生息していて、その多くが環境の変化により危機的な状況にあります。そのなかでも日本で人気のコツメカワウソは見た目の愛らしさが強調され、ペットとして飼えるという情報がメディアを通じて広がっていますが、野生動物であり、飼育は非常に難しい動物です。では、上野動物園でどのように飼育しているでしょうか?
コツメカワウソは東園にある「クマたちの丘」で、マレーグマやハクビシンなど同じ熱帯地域にすむ動物たちと隣り合った展示場でくらしています。コツメカワウソは陸地と水辺を行き来して生活するため、展示場にも陸地と水場があります。岩場や組んだ丸太は、運動能力の高いコツメカワウソが上り下りをしたり休息したりして活用します。また、水中で狩りをするため、いつでも自由に泳げる水場があることも健康維持につながります。
野生では小魚のほか、エビやカニなどの甲殻類や貝などの殻を砕きながら食べるため、動物園でも骨のついた肉や魚を与え、鋭い犬歯や大きな臼歯をしっかり使って食べられるようにしています。また、野生のカワウソのフンの調査記録などを参考に、野菜や果物も与えることで、より健康を維持できるよう工夫しています。さらに不足する栄養を補うため、必要に応じてサプリメントを与えます。
少しでも体調に異変があると、獣医師が対応します。例えば、2009年から飼育していた「アミン」(オス)は、2021年2月初めに通常と違う動きが観察されたため、園内の動物病院に入院して検査をおこないました。内臓に機能の低下が見つかり、懸命に治療をおこないましたが、2月7日に老衰で死亡しました。飼育係と獣医師が連携をして専門的なケアをおこない、その経験や記録は貴重な情報として今後の飼育管理に役立てられます。
このように動物園では飼育方法の工夫を重ねて、よりよいくらしをつくるように努力しています。
現在IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「危急種(VU)」に指定されているコツメカワウソは、過去30年間で野生の個体数がおよそ30%減少したと推定されています。その原因のひとつに、ペットなど愛玩動物としての利用を目的とした密猟や密輸があります。日本にコツメカワウソを密輸出しようとして摘発される事件も発生しています。絶滅危惧種を安易に飼うことは、種の絶滅に加担することになるのです。
日本ではかつて生息していたニホンカワウソが、生息地の破壊と乱獲により絶滅した過去があります。そして現在はコツメカワウソを、ペット目的の密輸入により脅かしているのかもしれません。カワウソに関わらず「野生動物をペットにすること」が、どれほど動物たちの未来を左右しているか、世界カワウソの日をきっかけにいっしょに考えてみませんか?
(2021年05月26日)