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走るハリテンレック、その距離は一晩で…
 └─2018/11/16

 動物園で飼育されている動物の行動範囲は野生に比べて狭くなることが多く、その場合は飼育に工夫が必要です。上野動物園「アイアイのすむ森」で飼育しているハリテンレックもそのひとつです。


ハリテンレック。テンレック類はマダガスカルに約30種が生息しています

 体長20センチほどのハリテンレックですが、生息地のマダガスカル島での調査によると、オスの行動範囲は約14ヘクタール(東京ドーム約3個分!)と報告されています。しかし動物園でハリテンレック1頭のために東京ドーム3個分のスペースを用意するのはむずかしく、バックヤードで使用しているケージは大きいもので底面が90×60センチでした。ケージが狭いことによる運動不足もあるのか、飼育個体は野生個体と比べると体重が増え過ぎてしまう傾向があります。そこで運動不足解消のため、ハムスターなどの飼育でよく使われる回し車を設置してみました。

 ハリテンレックは夜行性なので、職員がいる昼間に回し車を使うようすはほとんど観察できませんでした。しかし朝見ると回し車の中が汚れているので、使っているのは確かなようです。どれくらい使っているのか気になっていたところ、過去に多摩動物公園でモグラが回し車をどれくらい回転させるか調べた例があることを知りました。多摩では改造した万歩計を回し車に取り付けて回転数を計測したとのことなので、私も真似して試してみましたが、なかなかうまくいきません。結局、ビデオで一晩録画して数えることにしました。


【動画】夜間に回し車を回すハリテンレック

 しかし、いざ録画したのはいいものの、ひたすらハリテンレックが回し車をカラカラと回す映像を確認するのはなかなかやる気が起きず、7月に録画した映像を見終わったのは10月に入ってからでした。計測の結果、オス1頭が一晩(12時間)で1,927回転、距離にすると約1.5キロ走っていました。これは野球場のダイヤモンド(ホームベースから一塁、二塁、三塁を回って一周)を約14周した距離に相当します。一見活発に動き回る動物に見えませんが、野生同様、飼育下でもよく走っているようです。


授乳中のハリテンレック。右上の母親が3頭の子に哺乳しています

 回し車の効果かわかりませんが、最近は体重が増えすぎる個体もなくなりました。また、今年は3頭のメスが出産し、計9頭の子が育っています。東京ドーム27個分のスペースを新たに用意することはもちろんできないので、また回し車に頼ることになりそうです。

〔上野動物園西園飼育展示係 田中陽介〕

(2018年11月16日)


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