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クロキツネザルとクロシロエリマキキツネザル、オスとメスの事情
 └─2017/03/31

 上野動物園西園にある「アイアイのすむ森」では、クロキツネザルのペアを一般財団法人進化生物学研究所から借り受け、2017年1月から公開しています。クロキツネザルを迎え入れて飼育する中で感じたのは、「雌雄の仲がいい」ことです。木の上で休むときはいつも2頭が寄り添い、オスがメスを後ろからそっと抱えるようにしています。給餌のとき好物の果物をめぐって争うようなことはありません。「オスとメスのペアなら、仲がいいのは当たり前では?」と思われるかもしれませんが、キツネザル界ではそうとも限りません。

クロキツネザル。左:メス、右:オス
クロキツネザルの雌雄。休むときはいつも2頭いっしょ

 「アイアイのすむ森」ではキツネザル類の別種、クロシロエリマキキツネザルの家族(母、父、娘、息子の計4頭)を展示していますが、父親よりも母親のほうが優位です。いわば“父親が母親の尻にしかれているような状況”です。父親と母親が体を寄せ合って休むようなことはなく、それどころか父親がえさを食べようとすると、母親から顔を何度も叩かれてしまうことさえあります。そんなとき父親は服従を表しているのか、ちょっと情けない声で「キキキ」と鳴きます。最近では、体格の変わらなくなった娘から威嚇されてしまうこともあり、父親はさらに肩身が狭くなっているように見えます。

クロシロエリマキキツネザルの母親。奥に父親がいる
クロシロエリマキキツネザルの父親

 先日、この家族内の関係性がわかるようなできごとがありました。昨年11月、父親がヘルニアの手術を園内の動物病院で受けました。半日ほど経って家族の中に戻したところ、父親は、母親を筆頭に3頭から執拗に追われ、その後しばらく部屋のすみでじっとして過ごしていました。無断で留守にしたことを責められたのでしょうか。

 それから約2か月後、今度は娘が手の指をけがして動物病院に行くことがありました。前回の父親のこともあったので、けんかになったらいつでも仲裁に入れるように注意深く観察していたのですが、いざ娘を家族に戻すと、なにごともなかったかのようにすんなりと受け入れられていました。父親と娘で家族の反応がこうも違うのかと驚きました。

 こうした父親の境遇を来園者の方に話すと、自分やまわりの家族と共通するところがあるのでしょうか、「やっぱりね~」という声が聞こえることもあります。しかし、メスが優位というのは哺乳類の中では少ないようです。ただし、キツネザル類ではメス優位のことが多いようです。雌雄で体格に差がないこと、メスは妊娠や授乳のために食物をより多く必要とすることなどが関係している可能性があるそうですが、十分にはわかっていないようです。オスとメスのあいだの事情なだけに、単純な問題ではないのかもしれません。

・東京ズーネットBB動画「クロキツネザル、再び登場」(1分30秒)

〔上野動物園西園飼育展示係 田中陽介〕

(2017年03月31日)


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