上野動物園では2009年3月よりアジアゾウ「アティ」に対して本格的にトレーニングをおこなってきました。前回の報告では、訓練の方法や内容、今後の課題についてお伝えしました(前回のニュースは
こちら)。
あれから1年以上が経ち、今では一歩進んだトレーニングをおこなっていますので、その近況について報告します。
トレーニングでは、柵のそばに立たせたアティに飼育係が指示を出し、足や耳を柵から出すよう訓練します。健康状態を調べたり、採血をしたりするのが「ターゲットトレーニング」の目的の一つです。
体が柵と平行になるようにアティを立たせ、前後の足を出させる訓練はこれまでにもおこなってきました。現在取り組んでいるのは、その動作を長く続けさせる訓練と、柵に対して体が直角になるように立たせて後ろ足を交互に柵から出させる訓練です。また、削蹄(さくてい:ひづめを削ること)や採血のための訓練も進めています。
後ろ足を柵から出す動作は、ふだんから室内にゾウを入れた後でもおこなわせているので、屋外でもアティはスムーズに従ってくれました。
削蹄は足をあげさせておこなうのですが、当初アティは鼻を伸ばしてきたり、頭を振ったり、こちらをちょっと威嚇するようなようすを見せましたが、回数を重ねるうちに慣れてきたようで、反応も落ち着いてきました。ただ、少し時間を長くすると、足を降ろしてしまいます。
採血については、まず予行練習から始めました。柵から耳を出させ、注射針を刺す箇所を先のとがった物で刺激して、少しずつ慣らせていきました。最初は気にするようすを見せたアティですが、だいぶ慣れてきたころ、獣医師が実際に採血を試みました。残念ながら、その日はあいにくの寒さのせいか採血できませんでした(気温が低いと、ゾウの耳の末端まで血液があまり通わず、採血がむずかしくなるのです)。しかし、アティは注射針で刺されることを気にしてはいませんでした。
今後、アティが一つ一つの動作を正確におこなえるよう訓練を続け、動作の継続時間を長くして、細かいケアをするための工夫を重ねていきます。
写真上:耳を出させる練習(採血時など)
写真下:柵に対して垂直に立たせ後ろ足を出させる練習(削蹄時など)
〔上野動物園東園飼育展示係 藤本卓也〕
(2010年11月05日)