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クマのレスリング2題
 └─2010/07/23

 上野動物園で30℃を超える暑さの中、クマたちがレスリングのような行動を見せることがあります。暑さにイライラしているわけではなく、クマの特徴的な行動のひとつなのです。

◎ニホンツキノワグマ

 レスリングの際、後ろ足だけで立つことがよくあります。というのも、クマは足裏をかかとまで地面につけて歩く「蹠行性」の動物であり、足の可動範囲が広く、頑丈で力を出せるようになっているため、立ち上がることができると言われています。後ろ足で立ち上がるという行動は、攻撃の際だけでなく、見通しの悪い場所で遠くを見通すときに役立ちます。

 クマは遊びのためだけにレスリングをしているわけではありません。6~8月、ツキノワグマの交尾期には、レスリングが発展して交尾にいたります。上野動物園では、オスの「ソウ」がメスの「クー」とレスリング中、クーの背中側にまわって乗りかかり、交尾したのを確認しました。こうした行動が交尾期のあいだ繰り返され、冬眠中の2月ごろには出産、そして子育てへと続きます。

 昨年(2009年)は交尾を数回確認しましたが、残念ながら繁殖にはいたりませんでした。今年はいい結果を期待しています。暑い夏を迎えましたが、上野動物園でニホンツキノワグマのレスリングや交尾にいたる行動が見られるのはこの季節です。

〔上野動物園東園飼育展示係 野島大貴〕

◎マレーグマ

 上野動物園には、おとなのマレーグマが3頭います。オスの「アズマ」とメスの「モモコ」「キョウコ」です。

 モモコは昨年ウメキチを産んで子育て中。今年は6月末からアズマとキョウコを同居させました。ふだん別々にくらしている2頭ですが、発情期には柵ごしにコッコと鳴き合う姿が見られます。この時期に2頭を一緒にすると、めでたく交尾が見られるのです。

 ちなみに、マレーグマは基本的に季節に関係なく、一定周期で発情が訪れます。キョウコの発情周期は約2か月ですが、周期はメスごとに異なるようです。  発情のピークが来る前、2頭がレスリングをするのを目撃しました。2頭とも後ろ足で立ち、おたがいに前足を出してじゃれるような行動です。レスリングの継続時間は、16~79分でした。

 アズマはキョウコの背側に回り、交尾のための体勢を取りたいのですが、キョウコはそれを許さず、アズマに対して正面から向かっていきます。交尾姿勢に入るのが目的だったのに、相手にその気がないので、レスリングはだんだん遊びに変化してしまうのでしょう。最後にはアズマが逃げだし、キョウコがそれを追いかけたり、あるいは逆にキョウコが先に離れ、アズマがそれを見送るというパターンでレスリングは終わります。

 7月19日、ついに発情ピークを迎えました。アズマがキョウコのにおいをかぎながら追尾する行動が増え、最終的にキョウコに受け入れられたのです。  みなさんがこの記事を目にする頃、恋の季節も終り、アズマがキョウコにふられる日々へと戻ることでしょう。10月頃には子どもが見られるかもしれません。交尾までの経緯に思いをはせながら、今後にご期待ください。

〔上野動物園東園飼育展示係 野田瑞穂〕

(2010年07月23日)



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