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チンパンジーの身だしなみチェック!?
 └─2008/03/07

 ヒトは寝ぐせを直したり、おしゃれをしたり、身だしなみチェックが大変ですが、その際、たいてい鏡を使います。じつは、多摩動物公園のチンパンジー放飼場にも鏡があるのです(割られてしまうのでステンレス製ですが)。

 これまで、鏡に映る姿が自分だとわかる、つまり自己認識できるのはヒトだけと思われていました。しかし、チンパンジーやゴリラに鏡を見せる実験によって、彼らにも自己認識能力があることが証明されました。多摩動物公園でも、その反応を見てもらおうと1981年、チンパンジー放飼場に鏡を設置したのです。

 チンパンジーの子どもは3歳を越えるころから自己認識できることがわかっています(ヒトは2歳前ごろ)。2歳のボンボンは、少し前には鏡に向かってアタックしていましたが、最近やらないので、鏡に映っているのは自分と理解したのでしょうか。

 大人の中では、オスのケンタ(28歳)やラッキー(19歳)が鏡をよく使っています。いわゆるナルシストっていうアレなんでしょうか……? リーダーになるには身だしなみも重要なのか……!? しかも、鏡をただ見るだけではなく、口の中を見る、目ヤニをとる、傷口を見る、小枝を爪楊枝のように使って歯に詰まったものをとるなど、使い方はいろいろです。

 先日、メスのモモコ(14歳)が鏡の近くで口をいじっていました。「おっ!?モモコも身だしなみチェックか?」と思ったら、鏡ではなく、ガラスに向かっています。じつは、チンパンジーと来園者を隔てる4枚の大きなガラスのうち2枚は、彼らが人目を気にしないよう、マジックミラーになっています。モモコはこのマジックミラーを使って、歯のチェックをしていたのです。マジックミラーより鏡の方が写りがいいのですが……。なお、モモコにかぎらず、マジックミラーでチェックする個体は少なくありません。

 モモコは反対側からカメラをかまえられているとは知らず、一生懸命、ものすごい表情で、歯に詰まった何かを取っていました(写真)。私たちもこんな表情で鏡を使っているのですかね? 担当者でもなかなか遭遇できない場面なので撮影しましたが、こちらが恥ずかしくなってしまいました。

 よくみなさんから「サルのくせに!」とか「ヒトみたい!」という声が聞かれます。でも、よく考えてみてください。みなさんも彼らも同じサル類(霊長類)のなかまです。ヒトだけ特別という考えではなく、彼らの優れた能力を純粋に感じてみてください。

 チンパンジーとヒトがどれくらい近いのかチェックするのも、チンパンジーを見る楽しさのひとつです。あたりまえすぎてヒトが忘れかけてしまった大切な何かを、彼らはきっと伝えてくれます。担当者がオススメするのは当然かもしれませんが、ぜひ多摩動物公園に見に来てください。彼らが身だしなみチェックをしているのは、みなさんを待っているからなのかもしれません。

写真上:マジックミラーに自分を映す
写真下:すごい表情で歯をチェックするモモコ

〔多摩動物公園北園飼育展示係 木岡真一〕

(2008年03月07日)



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