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そっと忍び寄るソデグロヅル「アブちゃん」
 └─2007/11/02

 多摩動物公園のモウコノウマ舎を通り過ぎた右側に、ニホンコウノトリやクロトキ、ツル類が同居している放飼場があります。「ウマ上コウノトリ舎」と呼ばれており、おもにニホンコウノトリの繁殖ケージとして使われています。今回は、ここのソデグロヅルについて紹介しましょう。

 毎朝、飼育係は開園前にこの動物舎の掃除と給餌をおこなっています。一見、鳥たちがのんびり歩く、平和な雰囲気の放飼場です。しかし、ここに1羽、凶暴?な存在が……。

 それは個体番号T0737(左脚にオレンジ色の足環)のソデグロヅル、通称「アブちゃん」です。このソデグロヅルは、1996年に多摩で初めて繁殖した記念すべき個体ですが、人工育雛(人間の手で鳥のひなを育てること)で成長したので、飼育係を仲間だと思っており、人を怖がることを知らないのです。そのため、掃除に入った飼育係に向かって果敢に挑みかかってくるのです。ときには飼育係に寄ってきて、つついてくることも少なくありません。

 「アブちゃんとまだ距離があるなぁ……」と思っていても、アブちゃんは3歩くらいであっという間に近づいてきます。背を向けていると、そっと忍び寄ってきて、いつのまにか向こうの射程距離に入ってしまいます。飼育係はつねにアブちゃんを視界の隅に入れ、防御のためのデッキブラシを持っていないと危なくてしかたがありません。だから、アブナイの「アブちゃん」なのです。

 さて、そんな怖いもの知らずの「アブちゃん」ですが、どうも、飼育係を見わけているようです。私が休みの時に「アブちゃん」たちの世話をしてくれる飼育係の吉田職員は何度か危ない目にあっているようなのです。

 いつかきっと「アブちゃん」と理解しあえるときが来ると信じて、私たち今日も掃除と給餌に向かいます。しかし、じつは多摩動物公園にはもっと危険なソデグロヅルがいます! それはサル山の下、ソデグロヅル舎にいるオスのソデグロヅル「緑」(右脚に緑の足環)です。その迫力から、私と吉田職員は、「大アブちゃん」と呼んで恐れています。しかし、誌面も尽きたので、「緑」の話はまた機会があればご紹介しましょう。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 大橋直哉〕

写真上:ソデグロヅルの「アブちゃん」
写真下:吉田職員とアブちゃん

(2007年11月2日)



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