多摩動物公園のアジアゾウ舎では、ビデオカメラでゾウたちの行動を録画し、観察しています。24時間録画することで、夜間の行動も含め、ゾウたちの行動をつぶさに見ることができ、飼育管理に役立っています。
おもに何を確認しているのかというと、ゾウたちの睡眠時間です。ふだんの彼らは「横になって寝る」のに一晩合計3~4時間ていど、「立って寝る」のに一晩合計1時間未満ていどを費やし、それぞれの姿勢をこまかく区切るように繰り返しています。とくに「横になって寝る」のは体重のあるゾウにとって体への負担が大きいので、「立って寝る」状態やその他の行動を交えながら、体の右側と左側を交互に下にしながら、1時間前後の短い「横になって寝る」状態を繰り返します。
「横になって寝る」とき、彼らは好みの砂山に半身をあずけて寝るのですが、鼻の先をくるっと巻き、目を細め、なんだかとても幸せそうな寝顔……そして足を伸ばしたり縮めたり、そのようすはまるで空を飛んでいるかのようです。
ヴィドゥラの寝姿
5月ごろから「アマラ」(メス、19歳)と「ヴィドゥラ」(オス、16歳)は夜間も同居をおこなっているのですが、2頭はお互いに近くで寝ることが多く、ときには体の一部をくっつけて寝ます。野生のメスゾウは、母方の家族やその子どもたちと群れを作り、お互いにくっついて寝るそうですが、群れのなかまがいないアマラにとっては、ヴィドゥラとくっついて寝ることで安心するのかもしれません。
お尻くっつき寝。左:ヴィドゥラ、右:アマラ
国内最高齢の「アヌーラ」(オス、推定71歳)も、見ているこちらが幸せな気持ちになる寝顔を披露してくれます。ちなみにアヌーラは寝始める時間が3頭の中でもっとも遅く、だいたい3時ごろにようやく横になります(アマラは早くて20時ごろ、ヴィドゥラは0時ごろ)。寝始める時間に差はあれど、寝たりえさを食べたり歩き回ったりしながら、ゾウたちは朝6~7時ごろには完全に起床します。
アヌーラの寝姿
睡眠時間の確認は、私たちがゾウの寝顔を見てほっこりする……ことが目的ではなく、じつはとても大切な役割があります。健康状態の早期把握です。たとえば体の左側を下にして眠ることが極端に減ってしまっている場合、左側のどこかに何か不具合があるのかもしれません。そのような場合は左足などを入念に確認し、外見や行動に違和感があればすぐに獣医師に診てもらうことができます。
睡眠時間そのものが減ってしまっている場合、メスに発情が来ていて落ち着かないのかもしれないし、もしかすると砂山のベッドが気に入らないのかもしれません。そのような場合はアマラとヴィドゥラの同居時間を増やしたり、お気に召すような砂山を作り直したり、いろいろと対策ができるのです。
ゾウたちの健康状態を知ることができ、なにより幸せそうな寝顔を見ることができる睡眠時間の観察は、私たちのひそかな楽しみになっています。
〔多摩動物公園南園飼育展示第1係 髙津〕
◎関連記事
・
アジアゾウの夜の過ごし方(2014年03月21日)
・
砂地の上の痕跡は……新環境で過ごす高齢動物(2020年02月20日)
・
アジアゾウ「ヴィドゥラ」、引っ越し後初めての夜間放飼(2022年06月10日)
・
「アジアゾウのすむ谷」で働く車(2023年11月10日)
(2024年07月26日)