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トノサマバッタの不思議──黒いバッタと緑のバッタ
 └─ 2024/07/05
 多摩動物公園の昆虫生態園にはバッタのコーナーがあります。トノサマバッタやいくつかのバッタ類を並べて展示しています。


トノサマバッタの展示コーナー

 トノサマバッタの展示コーナーでは、卵鞘の標本(トノサマバッタは泡に包まれた卵を地中に産みつけます。たくさんの卵を覆うこの構造物を卵鞘と呼びます)、卵から孵化した1令幼虫、それが脱皮した2令幼虫、それに続いて脱皮した3令幼虫、4令幼虫、5令幼虫そして翅の生えた成虫と、成長の順に展示しています。成虫の展示ケースには砂を敷き詰めてある透明なプラスチック容器が置いてあって、この中に産卵をします。うまくしたら腹を砂の中に差し込み産卵している姿や、容器の縁に沿って産んだ卵鞘が見られるかもしれません。この容器は4日ごとに交換し、取り上げたものは30℃の恒温機に入れて約2週間で孵化します。

 この成長の順に展示しているトノサマバッタが黒い色をしているのは集団で飼育されたためで、「群生相」と呼ばれています。原因は高密度、集団でいるために互いにふれあう刺激や、特に糞中に含まれる揮発性の高いフェロモンの作用と考えられていて、体の横にある昆虫の呼吸器である気門から呼吸とともにフェロモンが体内に入り、体内のホルモン分泌を変化させるためだとされています。黒いバッタは集合する習性が強くなり、全体が細長くスマートで後ろ脚は短く、翅が長くなって飛ぶのに適した体型になります。


群生相のトノサマバッタ

 その隣には緑色のトノサマバッタを単独で展示しています。ふつう見かけるトノサマバッタは広いところで単独で生活しているため体は緑色になり「孤独相」と呼ばれています。黒いバッタに比べ単に色が違うだけと感じますが、体に丸みがあり翅が比較的短く、後ろ脚は長くなっています。


孤独相のトノサマバッタ

 緑のバッタを作るのが一苦労で、飼育ケースに1頭飼いにすれば緑色になるというほど簡単ものではないのです。集団で飼われていなくても掃除がおろそかだと自分のフンから発するフェロモンで高密度と感じて黒くなってしまうので、こまめな掃除が欠かせません。ただし、頑張って掃除をしても必ずしも緑色にはならず、努力が報われないこともあります。

 手をかけずに緑のトノサマバッタを作るには、孵化して間もないまだ体が白っぽいうちに(孵化後約30分以内)生態園内のバッタの広場に放す方法があり、緑色を保ったまま成長します。しかし10頭放して10頭すべてが緑になるのではなく、春夏の時期は5〜6頭、秋冬は1〜2頭、あるいはまったく緑にならないこともあります。矢島稔元園長の本によると気温や湿度も関係しているそうです。

 トノサマバッタの成虫の体長はオスで約5.5cm、メスは約6.5cmです。体のつくりを見ようと思っても、バッタの姿勢や向きによって見たいところが見えないこともあると思います。そんなときに利用してほしいのが昆虫園中央広場にある2頭の大きなトノサマバッタのオブジェです。生態園に向かう坂から見て手前の小さいほうがオス(5.5m)、大きなほうがメス(6.5m)です。じつはこのオブジェは色こそ銀色をしていますが精巧に作られておりバッタの体の作りが学習できるのです。

 目や口がある頭、6本の脚と翅がついている胸、たくさんの節がある腹……と昆虫の特徴が容易に確認できます。お尻の先端の交尾器を見ると雄雌の違いがわかります。金属製のため夏になると強烈な日を浴びて表面が熱せられてしまい、さわるとやけどをしてしまうほどになるのでさわったり乗ったりするときは注意してください。


バッタのオブジェ

〔多摩動物公園教育普及課昆虫飼育展示係2班〕

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