多摩動物公園の昆虫生態園では、今まで展示したことがなかった新しいチョウの飼育に挑戦することがあります。今回は、2022年11月~2023年5月までの半年間で飼育・展示したチョウ、「ルリモンジャノメ」についてご紹介します。
ルリモンジャノメはタテハチョウ科ジャノメチョウ亜科に属するチョウの一種で、台湾以南の東洋区に広く分布しています。日本には本来分布しておらず、八重山諸島や沖永良部島で数例の記録があるだけでした。ところが2021年に西表島で確認されて以降、島内で継続的に発生するようになりました。台風や季節風などに乗って、元々いなかった地域に飛来したチョウのことを「迷蝶」と呼びます。ルリモンジャノメも迷蝶として飛来したものが西表島で定着したと思われます。
ルリモンジャノメの翅は全体的に茶色っぽい色をしていますが、前翅の表側には名前のとおり、青色の斑紋があります。オスでは後翅の表側に赤茶色の部分があり、メスでは白色の斑紋が並んでいます。ルリモンジャノメは毒チョウであるツマムラサキマダラやマルバネルリマダラのようなルリマダラ属に擬態していると言われています。写真だとそこまで似ていないように見えますが、実際に飛んでいるようすを観察すると、青光りする前翅がよく目立ち、確かに似ているなと思いました。
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成虫の翅表(メス) | 成虫の翅裏 |
昆虫生態園のルリモンジャノメは2022年11月に西表島で採集したメスから採卵し、継続的に繁殖させてきたもので、2023年5月現在、3世代目を飼育しています。ヤシ科を食草とするので、園内に多く自生しているシュロを幼虫のえさとして与えています。シュロの葉は硬いので、特に生まれたばかりの初齢幼虫は食いつけないのではないかと心配になりましたが、意外に気にせず食べてくれました。シュロは葉を水に挿しておくとよく日持ちし、冬でも青々とした葉を取ることができるので、えさとしてはとても使いやすい食草でした。また、代用食として生態園内に生えているカヤツリグサ科のシュロガヤツリも試してみましたが、こちらでも問題なく成長し、羽化が確認できました。
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えさを食べる初齢幼虫 | 終齢幼虫 |
2023年5月現在、生態園内には少数の成虫が飛んでいて、メスは産卵をしているのですが、回収した卵が孵化しない状態が続いています。そのため、ルリモンジャノメの飼育・展示は一時終了する可能性があります。新しい展示種の飼育はうまくいかないこともありますが、今回の経験を今後の飼育に活かしていこうと考えていきます。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 角田〕
(2023年06月06日)