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最長寿クロツラヘラサギの死亡
 └─ 2023/02/03
 2022年1月11日に、多摩動物公園の非公開ケージであるクロツラヘラサギ舎で1羽のメスのクロツラヘラサギが死亡しました。この鳥は多摩動物公園でのクロツラヘラサギの飼育が始まった1989年から飼育していた個体で、足輪の色から飼育係は「みどり」と呼んでいました。


死亡する1週間前の「緑」(手前)
(撮影日:2023年1月4日)

 緑は1987年に朝鮮半島で捕獲され、東京都小平市にある朝鮮大学校で飼育されていました。その後1989年に同じくメスの「だいだい」といっしょに朝鮮大学校から多摩動物公園に来園しました。朝鮮大学校とはその後も協力してクロツラヘラサギの飼育や繁殖に取り組んできました。来園時は同じトキのなかまがたくさんいるトキ舎に入り、その後、緑たちに続いて来園したクロツラヘラサギやたくさんのトキのなかまたちとともにすごしていました。

 緑の初めての繁殖は1996年で、3羽のひなを育て上げました。飼育下のクロツラヘラサギでは世界で初めての繁殖でした。それから19年、何度も繁殖に成功し、最後の繁殖は2015年でした。この年は3個の卵を産み、有精卵が1個だけでしたが無事に成育しました。


繁殖していたころ、ペア相手と(左が緑)
(撮影日:2012年6月27日)

 2017年ごろからは地上にいることが増えてきて、翼の関節が固くなってきて翼がしっかり広がらないために、高いところにある止まり木まで飛び上がることができなくなりました。しかし、地上においてある止まり木を利用するなどして、野外で骨折して保護された飛翔できないなかまたちといっしょに地上エリアでのんびりとくらしていました。

 2019年からは夏場になると地面で休んでいることが多くなりましたが、群れで生活する鳥であることを考慮し、そのまま同じ場所で飼育を続けました。2022年も同様に夏場は休息時間が長く、換羽に時間がかかっていましたが、涼しくなってからは、えさを届けるとのんびりと食べに来ていました。


地上ですごすようになってきたころ(緑31歳。手前が緑)
(撮影日:2019年2月7日)

 2022年12月ごろから、少しずつ動きがゆっくりになってきて、1日の大半を休息してすごすようになり、1月11日の朝に死亡していることを確認しました。前日も小魚を食べに来ていただけに驚きました。死因は頭部挫傷でした。飛翔もできず早く走ることができないので、何かにぶつかったとはあまり考えられませんが、心臓も弱っていたので、ふらついてぶつかってしまったのかもしれません。

 ちょうど昨年は、2015年に緑が最後に残したひなが成長して初めて繁殖に成功した年でした。命のつながりを見届けて天国へ旅立ったとも思えました。35歳はクロツラヘラサギの最長寿の記録です。ありがとう緑。35年間お疲れさまでした。

〔多摩動物公園野生生物保全センター 石井〕

(2023年02月03日)



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