昆虫園本館1階水生昆虫コーナーにあるオオコオイムシの展示水槽の水底には、小さな巻貝の貝殻が落ちていることがよくあります。ただの飾りのようにも見えるこの貝殻たち、実はすべてオオコオイムシたちが食べたあとなのです。
オオコオイムシは、オスが卵を背負って世話すること(写真①:オオコオイムシ、写真②:卵を背負うオスの成虫)が特徴のカメムシ目の昆虫で、カマのような前脚を使って捕らえた獲物に、針状の口(口針)を刺し中身を溶かして食べてくらしています。幼虫も成虫も水辺の小さな生き物を獲物にしていますが、対象としている獲物のなかでも特徴的なのが巻貝です。
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写真①:オオコオイムシ | 写真②:卵を背負うオスの成虫 |
日本に生息しているカメムシ目の水生昆虫、たとえばミズカマキリやタイコウチ、タガメもどれも前脚がカマ状になっていて、オオコオイムシと同じように、獲物となる水辺にいる生き物を挟んで捕まえています。実際に飼育して観察してみると、得意とする獲物に違いはあれど、どの種もある程度共通した生き物をえさにしています。
そんななか、巻貝に関してはオオコオイムシ以外の3種はいっさい興味を示しません。巻貝は体の周りを硬い殻で覆われているので、殻にこもられてしまうと、やみくもに口針を刺そうとしても食べることは難しい相手です。さらに、丸みを帯びた形はカマ状の脚でつかみづらいようで、時折捕まえてみることはあっても、早々に諦めてすぐに手放してしまいます。
しかし、オオコオイムシは両脚を巧みに使って巻貝をくるくると回して、唯一の弱点である、巻貝の体がある開口部を実に器用に探し当てて捕食します(写真③:巻貝を捕食中の成虫)。捕食中の貝を抱えている姿は、襲われる貝からするとたまったものではないでしょうが、個人的にはかわいらしく見えます。動いていない貝を探し回って捕まえに行くようすも確認しているので、ただの貝殻なのか、それとも生きている貝なのかということも判別できているようです。

写真③:巻貝を捕食中の成虫
展示水槽では現在約40個体ほどのオオコオイムシを飼育しています。水槽内の貝たちは2~3日に1匹のペースでオオコオイムシに捕食されているため、おおむね1週間に一度数十匹のモノアラガイやサカマキガイといった巻貝を水槽に追加しています。
常にご覧いただけるわけではありませんが、ご来園の際には、巻貝を探し回るオオコオイムシや、捕食中のオオコオイムシのようすに注目してみてください。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 渡辺〕
(2022年07月22日)