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ニホンカモシカがやって来た(※展示を開始しています)
 └─多摩 2022/07/15(07/27更新)
 2022年6月22日、広島市安佐動物公園からニホンカモシカの「サキ」(メス、11歳)がやってきました(来園のお知らせ)。

 前日に広島を出て、空調の効いた車で運ばれ、翌朝多摩動物公園に到着しました。動物舎の近くで車の後方ドアを開けると輸送箱が見え、箱の中からはドンドンと音がしました。元気そうだと確認し、さっそく箱を室内に運び入れました。空いている部屋の入口に箱をつけて箱の扉を引き抜きますが、サキは出てきませんでした。中からは変わらずドンドンと音が聞こえ、箱の中で脚を踏み鳴らしていたのです。

 しばらく待ってみても、部屋を暗くしても、少し鼻先が出る程度で一向に出てくるようすがありませんでした。そこでその場にいる全員が一度その場を離れることにしました。一時間後、そっとのぞいてみると、部屋の隅に黒い姿がありました。


室内でのサキのようす

 昨年の12月まで飼育していた「コタロウ」(オス、豊橋総合動植物公園へ移動)は本州産で明るい灰色の毛並みでしたが、サキは四国産です。同じニホンカモシカでも地域差があり、サキは四国産の特徴とも言われる黒っぽい毛をしています。えさはあらかじめ室内につけておいたので、まずはひと休みしてもらおうと、その日はそのままそっとしておきました。

 翌朝は部屋の奥の隅に移動しており、その横に排便も確認できました。しかし、えさを食べた形跡がありません。飼育係に気づくと片脚を上げて踏み鳴らし、部屋の壁に眼下腺を擦りつけます。ニホンカモシカは目の下に特殊な液体が出る腺があり、それを擦りつけて自らのにおいを残します。緊張しているようすがうかがえました。

 新たに動物園に来た動物は、病気にかかっていないか一定期間隔離して検査する「検疫」をおこないますが、今回もその期間は室内ですごします。当初は隣室にえさをつけ、移動するあいだに清掃をしようと考えていましたが、警戒して難しそうでした。そこで、サキの側にニンジンなどの根菜や桑の枝を投げ込みました。そのときは心配ながらも3〜4日も経てばおなかも空いて食べてくれるだろうと思っていました。

 その後も、見るといつも定位置にいて、えさを食べたか確証が持てない日が続きました。検疫のため採糞の必要もありましたが、まずは食べてほしいと切実な気持ちになります。そこで今度は室内に向けセンサーカメラをつけてみることにしました。カメラは動くものがあると反応し、夜間暗くても一定時間録画します。どきどきしながら翌日画像を見てみると、夜間室内を動き回るようすや枝葉を食べるようすが確認できました。多摩動物公園にやって来てから7日目のことでした。

 次の課題は検疫のための採糞です。すでに来園前に一度検査しているものの、万全を期して来園後にもう一度おこないました。カモシカはため糞をするのですが、いつもいる定位置のすぐ横にしていました。一度近寄ってみましたが、両脚を上げて威嚇してきたため早々に断念しました。サキのようすから無理をするとその後の信頼関係に支障をきたす可能性があるため、室内の奥にある糞を採取するにはどうしたらいいか、頭を悩ませました。

 そこでベテラン獣医師のアドバイスにより使用したのが、竹竿と粘着テープです。長い竹竿の先に付けた粘着テープで採糞をめざします。初めての試みでは、サキは目の前でユラユラ揺れる枝が何をしようとしてるのかととまどいつつも、すぐ脇にある糞を採らせてくれました。無事に取れたと喜んだのもつかのま、糞が古く乾いてしまっていたので、検査がうまくできませんでした。何度か取り直しになりましたが、無事検疫を終えることができそうです。

 そのあいだにもサキの動きは日々変わり、竹竿に頭を寄せてきたり、飼育係が見ていても室内を移動するようになりました。脚の踏み鳴らしも、ゆっくりと誇示する程度に緩和されたように感じます。最近では、外が気になるようすで飼育係にかまわず運動場への扉の前を行ったり来たりするようすも見られます。当初の予定よりゆっくりした日程になりましたが、サキのペースで焦らず慣れてくれたらと思っています。

 その後、検疫も無事終了し、7月21日(木)から放飼場と室内を出入り自由にして展示を開始しています。

〔多摩動物公園南園飼育展示第1係 小林〕

(2022年07月15日)
(2022年07月27日:展示開始について追記)



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