動物園で「エンリッチメント」という言葉を耳にしたことはないでしょうか?
エンリッチメント(環境エンリッチメント)とは簡単に言うと、動物のふだんの生活のなかに適切な刺激を与えて、行動のレパートリーを増やすことです。エンリッチメントという言葉を使うと難しく思えてしまうかもしれませんが、特別な技術が必要になるわけではありません。たとえば、えさを与える時間や場所をふだんと変えるだけでもエンリッチメントにつながる試みと言えます。日常に変化を与え、動物の思考を刺激することが重要となります。
このたび、アフリカゾウの「砥夢」(オス、13歳)へのエンリッチメントの新しい試みとして、盛岡市動物公園のゾウ担当者からいただいたタイマー式の自動給餌器を屋内に設置しました。この給餌器は受け皿が電磁石で固定されており、設定した時間になると磁石が外れて受け皿に乗せたえさが落ちる仕組みになっています。これを使用することで、飼育担当者がいなくてもふだんとは違う時間に給餌することができるようになります。受け皿には乾草やヘイキューブ、ペレットを乗せています。
早朝5時から6時のあいだに給餌器からえさが落ちるようにタイマーを設定しました。この時間帯は、砥夢がえさをあらかた食べ終えて放飼場や室内をうろついています。設置初日も砥夢はふだんどおり部屋ですごしていました。たまたま給餌器の真下にいた砥夢の背中にえさが落ち、これには砥夢も驚き、ラッパ音のような鳴き声を出していました。しかし、落ちてきたのがえさだとわかるとすぐに落ち着いて食べ始めました。
設置してから3日目にはえさが落ちてくる時間帯を覚えたようで、設定時間前には給餌器の下で待ち構えるようすが見られました。これではエンリッチメントの意味がなくなってしまうため、その後は毎日設定時刻を変え、砥夢が予測できないようにしています。
放飼場でもタイヤのなかや切り株の隙間にえさを隠すなど、給餌の工夫によるエンリッチメントをおこなっています。動物園に来てみて、今まで放飼場になかったものが置いてあったら、それを動物がどのように使うのかを見ることも楽しみ方のひとつです。来園した際にはそのような視点でも観察してみてください。
【動画】新たに設置した自動給餌器
〔多摩動物公園北園飼育展示係 三松〕
(2022年05月20日)