昆虫園本館では、水生昆虫コーナーの展示水槽をリニューアルしました。本来は2週間以上展示を休止しておこなう計画でしたが、年始早々に臨時休園という思わぬ事態が発生したため、この期間を利用して3月22日の再開園日に合わせて完了させることができたことは不幸中の幸いでした。
今回のリニューアルでは、より大きく、枠のない水槽に変更することで、主に
(1)飼育環境の改善:水量を増やすことで、水温と水質の変化を減らし、水槽内の昆虫たちの生育環境を向上させる。
(2)観察しやすさの改善:水中と水上の空間をより広く確保して、さまざまな角度から観察できるようにする。
の2点の達成を目的としました。
リニューアルした展示の全景
(1)飼育環境の改善
現在飼育中の水生昆虫は水を汚しやすい種が多く、たとえばゲンゴロウでは、与えたえさをきれいに食べきることはまれで、好きな箇所以外を食べ残してバラバラにしてしまうことが非常に多いです。
タガメやオオコオイムシでは、捕らえた相手を消化液で溶かして中身だけを食べるため、一見するときれいに見えるのですが、半端に溶かしたまま水中に捨てることもしばしばあります。
こういった食べ残しはいたみやすく、魚だけを飼育した場合と比べても格段に水が汚れます。それにもかかわらず汚れた水でくらすのは苦手な昆虫たちなので、水槽内の水量を増やすことで、以前よりも水質悪化をゆるやかにして、より快適にくらせるようになりました。
(2)観察しやすさの改善
水上の空間も確保するという点は、両生類の展示に近い要素かもしれません。水中でくらすことに特化していながら、水生昆虫の多くの種は水中にい続けることができません。
ゲンゴロウやタガメ、オオコオイムシも、体表面にコケやカビなどが生えて病気などにならないように、定期的(多いときは毎日)に体を乾かすメンテナンス行為、カメの「甲羅干し」のような行動を必要としているため、陸上の空間もとても大切です。それでいて陸上での行動は非常に不器用なため、体を乾かすための広い空間とセットで、その種に合ったつかまりやすい足場も用意することが大切です。
ゲンゴロウやオオコオイムシは、水中にいるときにはため込んだ空気の浮力で浮かんでしまわないように、水中にあるもののすき間に挟まったり水底の沈殿物につかまったりしながらすごしているので、意図的に水中に挟まったりつかまったりできるものを多く配置しています。
水底で落ち葉に捕まるゲンゴロウのオス
従来に比べ水槽が大型になったことで水量が増して、より水生昆虫たちがくらしやすく、水槽の枠をなくしたことで水上部分も見やすくなった水生昆虫コーナー。
水草などはまだ成長途中のものもありますので、レイアウトの完成まではまだ少し時間がかかりますが、いままでは見えづらかった水上での甲羅干しのようす、水中で呼吸する姿や泳ぎなどの仕草が観察しやすくなっています。ただ、すぐには動かないこともありますので、来園の際にはぜひじっくり時間をかけて水槽内の水生昆虫たちを探してみてください。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 渡辺〕
(2022年04月22日)