「カブトムシ」と聞くと夏のイメージが強い昆虫ですが、夏以外の時期はどんな姿で、どんなくらしをしているのか? 知らない人も案外多いようです。
そこで多摩動物公園の「カブトムシ展」では、カブトムシの一生を「本物」を用意して紹介しています。今回はこの準備のようすをご紹介します。
野外でカブトムシを見られる夏は、カブトムシの繁殖の時期でもあります。交尾したメスの成虫が落ち葉の積もった土に潜り、卵を産みます。卵は15日ほどで孵化し、幼虫が生まれます。幼虫は腐葉土を食べながら成長し、2回脱皮をして、秋には大きな3齢幼虫(終齢幼虫)となります。十分に大きくなった幼虫は、そのまま土のなかで冬眠します。発育を再開するのは、春になり暖かくなってからです。5月下旬ごろになると幼虫は、土のなかでさなぎへと姿を変えはじめます。そして、成長の早い個体は6月には成虫となり、地上に姿をあらわします。
地上に出てきたカブトムシの成虫を見かけると「夏が来たな」と思います。しかし、カブトムシは、本当はこのように姿を変えながら、1年中くらしているのです。
カブトムシの1年間のおおよそのすごし方
このカブトムシの一生を一度に見られるように、すべての成長段階を同時に展示しているのが、多摩動物公園の夏休みのイベント「カブトムシ展」です。
この展示の秘密は、昆虫園にある大型冷蔵庫です。冷蔵庫のなかは温度が10℃に保たれており、たくさんのカブトムシの幼虫が冬眠しています。このおかげで必要に応じていつでも幼虫をあたたかい部屋へ移し、発育を再開させることができるのです。
今年もまず、7月からのカブトムシ展で展示する3齢幼虫の準備を始めました。
2022年2月中旬、カブトムシの幼虫を冷蔵庫から取り出し、あたたかい室内で飼育を始めています。現在(4月上旬)、幼虫はちょうどさなぎへと姿を変えたところです。このまま順調にいけば4月下旬ごろに羽化し、成虫となります。
4月上旬にさなぎになった個体
(撮影日:2022年4月4日)
この成虫が卵を産み始めるのは、5月上旬になってからです。産んだ卵は5月下旬ごろに孵化し、成長すると7月のカブトムシ展の開始時期には3齢幼虫となっています。
今年も7月から8月にかけて「カブトムシ展」を開催予定です。3齢幼虫以外にも、1齢幼虫や2齢幼虫、さなぎ、卵を同時に展示するために、これからもスケジュールを調整しながら冷蔵庫から幼虫を取り出し飼育していきます。
生きているカブトムシのすべての成長段階を同時に見られるのは、昆虫園があり、通年でカブトムシの展示をおこなっている多摩動物公園ならではです。夏まではまだまだ時間はありますが、今年も「カブトムシ展」を楽しみにしていただければと思います。
〔多摩動物公園教育普及係 木下〕
(2022年04月08日)