多摩動物公園昆虫生態園の「南西諸島のいきもの」コーナーでは、八重山諸島に生息するアイフィンガーガエルを展示しています(
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アイフィンガーガエル
カエルといえば田んぼや池にいるイメージが強いかもしれませんが、アイフィンガーガエルは森にくらすカエルです。大きな水辺のない森のなかで、木のくぼみなどにできた水たまりの水際に卵を産みつけます。こうした水たまりにはえさとなるものがありませんが、卵が孵化したあと、母ガエルがえさとして無精卵を産み、オタマジャクシに与えます。日本では唯一子育てをするカエルです。
この変わった習性、ぜひ見てみたいと思うのが飼育係。しかしアイフィンガーガエルは夜行性です。産みつけられた卵や、飼育係がえさを与えなくても育っていくオタマジャクシを見ることはできるのですが、無精卵をオタマジャクシに与えるという決定的瞬間を捉えることはできませんでした。別の担当者がセンサーカメラを設置したこともありましたが、これもうまくいきませんでした。
しかし、とある日の朝。飼育ケースのひとつにふと違和感をおぼえました。何か、なかが騒がしい……のぞき込むと、そこには衝撃的な光景が。
水に半身浴しているメスガエルのお尻に、オタマジャクシが群がっていたのです。初めは状況がつかめず困惑したのですが、これは給餌シーンなのかもしれないと思い立ち、慌てて動画を撮り始めました。
【動画】アイフィンガーガエルの子育て
母ガエルは多少嫌がって足を動かすこともありますが、じっとその場を動かず、オタマジャクシにされるがままです。卵を産み落とした形跡は見られませんでしたが、その後確認すると、オタマジャクシのおなかはしっかり満たされていました。
この光景を見たのは一度きりなので、本当にオタマジャクシが母ガエルのお尻から直接卵を食べていたのか、はっきりとしたことは言えません。しかし、オタマジャクシは産み落とされた卵を食べるのだと思っていたため、直接お尻に食べにくるとすると、驚くべきことでした。
飼育しているなかでこうして新たな発見と新たな疑問を得られることは、飼育係の仕事の楽しさのひとつです。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 古川〕
(2022年02月25日)