主にカナダやロシア、北欧に分布し、寒さに強く冬の季節に元気いっぱいなのがトナカイです。現在、多摩動物公園で飼育しているトナカイは2頭で、いずれもメスです。今回はこのうちの1頭、「ひかり」の角の話です。
トナカイ「ひかり」
ひかりは2019年5月5日に釧路市動物園で生まれ、1歳半ごろの2020年10月28日に多摩動物公園に来園しました。そのときは輸送に備えて事故防止のために生えていた角を切っていたので、角のない状態でした。
トナカイの特徴のひとつとして、シカのなかまで唯一オスとメスの両方に角が生えることが挙げられます(ほかの種類はオスだけに角が生えます)。
また、シカのなかまは角が毎年生え変わりますが、トナカイのオスは早春から伸びた角が秋の繁殖シーズン後に落ちます。これを落角(らっかく)と言います。しかし、メスはこの落角の時期がオスと違い翌年の5月ごろになり、その後少ししてから再び新しい角が生え始めます。伸び始める角は外側皮膚と同じような組織に覆われ、茶色でやわらかく、内側に血管があり、ここから栄養を送って生長していきます。この角の状態を袋角(ふくろづの)と言います。秋になるとカルシウムが貯まり、外側の組織が剥けてきます。これを破角(はかく)と言い、硬い角が現れます。
ひかりは来園する際に角を切っていますので、当園での最初の冬は角のない状態ですごしています。昨年(2021年)の春に袋角が生え始め、夏前には大きな袋角になりました。秋には破角して白い立派な大きな角が現れました。2歳にしてはあちこち枝分かれして、いかにもトナカイという角です。メスとしては体格の大きいひかりがもう1頭のやや小柄なメスの「レラ」といっしょにいるとオスと間違われるのは、この角のせいもあるのかもしれません。
「ひかり」の角
一年の角のサイクルを経てひかりの角がどのようなになるのか、この冬に観察しました。角は毎年だんだん枝分かれが増えていくので、どんなふうになるが楽しみです。
ひかりは白っぽい体毛で大きな角を持つトナカイらしいトナカイですが、トナカイは最近の地球温暖化の影響で生息数を減らしており、2016年に国際自然保護連合のレッドリストで絶滅危惧種に初めて指定され、さらに2020年のレッドリストでは危急種(VU)に指定されています。サンタクロースのそりを引くイメージの強いトナカイですが、野生でのトナカイの状況についても知っていただけたらと思います。
〔多摩動物公園動南園飼育展示係 井上〕
(2022年02月18日)