2021年10月13日に、旧アジアゾウ舎で飼育していた「ヴィドゥラ」(オス、14歳)を新施設「アジアゾウのすむ谷」に移動させました。これにより、多摩動物公園で飼育している3頭のアジアゾウすべてが新施設に移りました。
今回は、ヴィドゥラの輸送や新施設でのようすについてお伝えします。
ゾウを移動させるには、輸送箱に入れる必要があります。ただ、アジアゾウは大きな身体とは対照的に繊細で警戒心が強い動物ですので、まず箱に慣らす必要があります。このため、2016年3月に旧アジアゾウ舎の放飼場へ輸送箱を設置しました。
箱に慣れると、次に箱のなかへ安心して入るための訓練をおこないます。さらに、このなかで向きを変えたり、暴れて怪我をしたりしないよう、両前肢を係留する(チェーンで輸送箱につなぐ)必要がありますが、これにもトレーニングが必要でした。ヴィドゥラを確実に輸送箱に入れて係留できるように、トレーニングを継続しておこないました。
移動当日はトレーニングの甲斐もあり、ヴィドゥラに大きな動揺は見られず、作業は順調に進みました。ところが、クレーンで輸送箱を吊る準備をしているあいだに、左前肢の係留が外れてしまうアクシデントがありました。しかし、ヴィドゥラは若干落ち着かないようすを見せながらも、徐々に私たちの号令に従って再度係留に応じてくれました。長きにわたるトレーニングがここでも活かされました。
ヴィドゥラに右前肢を上げさせて、輸送箱に係留するようす
トラックで輸送箱を新施設に運んだあとは、輸送箱を放飼場に設置し、箱のなかにいるヴィドゥラの両前肢の係留を外して、室内まで呼び寄せる予定でした。しかし、ヴィドゥラは係留を外すための号令に、なかなか応じません。大きな環境の変化により、飼育係の呼びかけに対する集中力がなくなっているようでした。
焦ることなく2、3時間ほど時間を置くとヴィドゥラも落ち着いたようで、係留を外すことができました。その後は新しい環境を確かめつつ、飼育係の呼びかけに応じて室内に入りました。
新施設では、ヴィドゥラは単独でくらしています。これは、アジアゾウのメスは群れでくらし、オスは単独で生活する習性を踏まえた施設にしているためです。ただ、オス舎の放飼場はメス舎の放飼場と隣接しているため、メスの「アマラ」とは柵越しにコミュニケーションをとることができます。
実際にヴィドゥラは移動翌日から、放飼場でアマラと鼻でふれあったり匂いをかぎあったりするようすが頻繁に確認されました。お互いが顔を合わせるのはおよそ1年半ぶりですが、2頭とも落ち着いたようすでした。今後は2頭の関係性を見極めながら同居をおこない、繁殖につなげていくことを目標にしています。
今回の輸送が完了したことで、多摩動物公園における新たなゾウ飼育の時代がスタートしました。
アジアゾウ本来の行動や自然に近いくらしを引き出せるよう、ゾウの福祉の充実や繁殖の実現、健康管理に全力を注ぐとともに、来園者のみなさまにゾウの習性や生態、生息地の現状などを学んでいただけるよう、引き続き取り組んでいきたいと思います。
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「アジアゾウのすむ谷」への移動直後のヴィドゥラ | 柵越しにコミュニケーションをとるヴィドゥラ(左)とアマラ(右) |
〔多摩動物公園南園飼育展示係 密本〕
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