昆虫園のチョウ担当飼育係は、チョウを展示するために幼虫のえさである植物(食草)を数多く育てています。えさとして育てるため害虫などに使う薬剤は使わず、1年中通して食草を供給するために、温室でも栽培しています。
2019年の夏、1ヶ月間ほどオオムラサキの成虫を展示していた期間がありました(ケージ内での期間限定展示)。オオムラサキは、カブトムシなどと同様に樹液をえさとします。
そこで、えさとしてチョウ用のハチミツ液だけではなく、果物や焼酎をカクテルして、発酵させたものを用意するため、オランウータンのえさとして使っているパイナップルのクラウン部(果実の上のヘタ部分)を分けてもらい、少しついている果肉の部分を使いました。

パイナップルのクラウン部
あるとき、そのクラウン部を植えるとパイナップルができるらしい……と聞き、興味本位で食草温室に置いて育ててみることにしました。
まずは、そのクラウン部の下葉を芯が出るように2~3cm取り除き、水につけました。芯から根のようなものが生えてきた後、鉢に植えて他の植物といっしょに水やりをし、大きく育ったら鉢を大きくする程度で、特に手をかけることもしませんでした。
それが、今年の4月に花芽をつけ、紫色の小さな花をたくさん咲かせました。6月には実が大きくなり始め、おなじみのパイナップルの姿になってきました。その後、9月半ばには黄色に色づき、香りも漂わせ完熟しました。

左から4月、6月、9月のようす
そこで、2年越しにパイナップルを収穫しました。計測したところ、果実部分は長径12cm×短径9cm、重さ600gで少し小さめでした。試しに味見をしてみると、酸味が少なく甘くなっていました。
せっかくなので、この完熟パイナップルを昆虫たちに食べてもらいました。残念ながら生態園大温室には、現在樹液を好むチョウがいないため、吊るしたパイナップル片でチョウが吸蜜している姿はほぼ確認できませんでした。カブトムシやオオゾウムシのもお裾分けしたところ、この無農薬・完熟パインは好評だったようです。
食草管理という日々の地味な仕事の中での、ちょっとした楽しい驚きのあるできごとでした。

パイナップルを食べるカブトムシとオオゾウムシ
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 高原〕
(2021年10月22日)