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コアラにユーカリを食べてもらいたい!
 └─ 2021/10/01
 お客様からコアラのえさ代についてご質問を受けることがあります。そんなときはいつも「えさ代(購入費)は出すことができません」とお答えします。

 というのも、ほかの動物のえさの多くが八百屋さんなどから購入する商品であるのに対し、コアラのえさであるユーカリは、オーストラリアから種を買い、栽培・採取・運搬をそれぞれ委託して確保するため、購入費が出せないのです。多摩動物公園では、私のようなユーカリの調達を担当する職員がユーカリ畑を視察して栽培状況を確認し、採取の計画を立て、委託先と飼育担当者の橋渡しをしています。

 そこで、調達担当になって知った、コアラのえさ事情をご紹介しましょう。無事にユーカリを食べてもらうまでには、いくつものハードルがあります。

ここが難しい! その①「ユーカリを安定して栽培できるかどうか」

 ユーカリが日本のどこででも栽培できればいいのですが、寒さに弱いため、温室を使っても北へ行くほど成長が悪く、通年採取は難しくなります。

 そのため、関東より南の暖かい地域で栽培しています。コアラがよく食べ、かつ日本の土地で安定して栽培できる品種を複数そろえられることが大前提です。

多摩動物公園内のユーカリ畑。
園内には4つの温室と露地で栽培しています
園内外で約20種栽培し、毎日7~9種を与えています

ここが難しい! その②「食べる部分が、え!? そこだけ!?」

 コアラの採食量はそれほど多くないのですが、食べる葉にこだわり、主に新芽や若い葉を食べ、成長した葉は残しがちです。まだたくさん葉がついていても、それ以上食べません。毎日まとまった量の新芽を与えるためには、たくさんのユーカリの枝が必要になります。

採食後のユーカリ。上の先端部分だけ食べています
新芽を食べるコアラ

ここが難しい! その③「コアラによる葉のセレクト」

 コアラごとにユーカリの枝に対する好みが違うとともに、栽培される畑や株、季節など、人にはわからない違いがあるようで、同じ品種の枝を与えても食べたり食べなかったりします。

 飼育担当者が「これはおいしそう!」と意気揚々とあげたのに手付かずだったこともしばしば。人にもコアラが食べるユーカリの目安がわかればいいのに……飼育担当者なら必ず一度は思うことです。

クンクン(においかぎ)、
ただいまユーカリのチェック中
このユーカリは合格のようです

ここが難しい! その④「1年中状態のよいユーカリを用意」

 寒さや猛暑、害虫による被害に加えて、近年は勢力の強い台風により、直撃しなくても強風や塩害でユーカリが被害を受けることが増えてきました。ほかにも、自然災害による栽培地の被災や、運搬経路の遮断も考慮せねばなりません。

 このため、多摩動物公園では危険を分散すべく、園内のほかに板橋区や千葉県といった近接地、また伊豆大島や八丈島といった都内島しょ部、遠いところでは和歌山県で栽培し、ユーカリを切らさぬよう気象予報を見ながら採取計画をたてています。

ここが難しい! その⑤「本っ当に、ユーカリしか食べない」

 コアラは本当の本当に! ほぼユーカリしか食べません。ほかの食べ物は目の前に出されてもまったく食べません。おなかがすいても食べません。ここまで代替のえさがないのは、哺乳類ではコアラくらいでしょう。ユーカリの確保はコアラを飼育するうえで、もっとも重要で欠かせないミッションなのです。

 「コアラがユーカリの葉を食べる」これはごく当たり前なことのようですが、東京の動物園で実現できるのは、飼育担当者はじめみんなの努力の証であり、とてもうれしくホッとする光景です。この当たり前を守るため、ユーカリ調達担当、飼育担当者、委託先で密に連携をとりながら、今日もユーカリ確保に奮闘しています。


今日もたくさん食べてね!

〔多摩動物公園調整係 徳田〕

(2021年10月01日)



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