チンパンジーの「フブキ」(オス、7歳)は、いま、人間でいえば思春期にあたる年齢です。
いたずら盛りの悪ガキで、相手が人間でもチンパンジーでも見境なく、隙をみつけるとすかさずフンや枝を投げつけます。この行動をティージングといい、現在13歳の「マックス」や「ジン」も以前はおこなっていました。しかし精神的な成長が進むと急におこなわなくなり、代わりにディスプレイ(※)をするようになります。
いまのフブキは19頭いるチンパンジーのなかで特に「マリナ」「サクラ」「チコ」「ペコ」などにティージングをおこないます。なかでも一番のからかい相手となるのは「デッキー」(オス、推定43歳)です。デッキーが泣きっ面になるのがおもしろいのか、フブキは何度も枝を投げつけては追いかけっこをしています。
【動画】デッキーをからかうフブキ
一方で頼りにする面もあり、何かが怖いときは泣いてデッキーに抱きつきます。また、よくえさをねだります。デッキーも時々えさをあげているので、フブキがかわいいのでしょう。
最近、私が2頭に違うえさを与えた際、次の瞬間にはお互い逆のえさを持っていたということがありました。フブキは自分が好きなものをデッキーが好きなものと交換してもらったようです。
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えさをねだる「フブキ」
| いまの「デッキー」と「フブキ」 |
【動画】えさのかけらをもらうフブキ
現在は悪ガキのフブキですが、着実に大人への階段も登っています。
身体面の成長としては、数年かけて顔は肌色から黒に変化し 、今年8月には乳歯が2本抜けました。永久歯が顔をのぞかせています。
精神面の成長としては、昨年から母親の「モモコ」と夜は別々の部屋で寝るようになりました。チンパンジーには、ヒトと同じように長い子ども期があります。野生だとオスのチンパンジーは一生母親と同じ群れにいますが、5歳ごろからは枝でベッドをつくって母親と別に眠る個体もいます。そのため、動物園でも夜は別々の部屋にしました。初日こそ離れたくなさそうだったフブキでしたが、自分ひとりのよさにも気づいたらしく、すぐに自らモモコと離れるようになりました。
また、空気を読む態度にも成長を感じます。群れのなかでなにかトラブルがあったり、仲が悪いようすを感じとると、お互いのあいだを行ったり来たり。なんとかケンカをやめてほしそうに両者に気を遣っています。相手によって、怖がったり、マネをしたり、バカにしたりと態度をいろいろと変え、世渡り上手な一面も垣間見えます。
2019年には弟が生まれ、お兄さんとなったフブキ。時折弟の「イブキ」をバンバンと叩きます。叩く力の強さに私たちは驚きますが、チンパンジーなりの遊びのようです。「痛い」と叫ぶこともなく、むくっと起き上がる弟のイブキ。やんちゃなようすは私たちに小さかったころのフブキを思い出させます。
今後、フブキが立派なオスに育っていくことを期待しています。
(※)ディスプレイ
力の誇示行動。叫びながら走って、壁を叩く、枝を引きずるなど、さまざまな方法で周りの個体に自分の強さをアピールする行動。
〔多摩動物公園北園飼育展示係 野田〕
(2021年09月24日)