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アフリカゾウ舎の扉
 └─ 2021/09/10
 みなさんは扉と聞いてどのようなものを想像するでしょうか? 自宅の扉、コンビニの自動扉などさまざまな種類の扉が頭に浮かんだかと思います。では、動物園の扉はご存知でしょうか? 今回は、ふだん見ることができないアフリカゾウ舎の扉についてご紹介したいと思います。

 人が使う扉にはたくさんの種類がありますが、動物園の扉は、動物の種によって体形、体格、生態が大きく異なるため、本当に千差万別です。大きなもの、小さなもの、手動式、電動式など、各動物舎、それぞれの種の特性に合わせた扉が備わっています。 そしてアフリカゾウ舎はというと、大きく、厚く、頑丈で、油圧で開閉する扉が設置されています。


職員との比較(職員の身長178cm)

メス舎扉の厚さ 16.5cm
オス舎扉の厚さ 25cm

 油圧式の扉は、飼育方法にもよりますが大きくて力の強い動物に採用されることが多く、多摩動物公園ではアフリカゾウ舎とアジアゾウ舎に備わっています。

 ゾウの仲間は動物の中でも非常に力が強く、特にアフリカゾウは陸上最大の動物で、成獣では体重も4t以上、大きなオスでは7t以上になります(昨年の体重測定の記事はこちら)。そのため、扉はゾウたちの力や体重に耐えられるように頑強にする必要があり、金属とコンクリートでつくられています。

 すると当然、ヒトの力では動かすことができないサイズと重さになるため、油圧の力で開閉をおこないます。油圧によって、液体に圧力をかけて小さな力を大きな力に変えることができます。身近な油圧機械として、たとえばパワーショベルやフォークリフトがあります。


油圧機械の一部

 油圧扉の開閉は、遠隔操作盤でおこないます。操作盤はいくつかありますが、安全のため、設置場所ごとに操作することができる扉が限られています。また、当園のアフリカゾウ舎では安全対策のために、2つの操作盤、2つの扉を同時に操作することができないようになっています。


操作盤は設置場所によって操作できるスイッチが異なります
(都合により画像を加工しています)

 操作は基本的に、目視で安全を確認しながらおこないます。しかし、建物の構造上、目視での確認ができない扉があります。その際には、モニターで安全確認をしながら操作をおこないます。


モニターには9ヶ所が映し出されています

 扉を動かす油圧の力はとても強く、ヒトもゾウも挟まれれば無事ではすみません。開閉時は重大事故につながるおそれがあるため、慎重に安全確認をしたうえで操作する必要があります。また、誤操作での動物の脱出や予期しない動物どうし、また動物と人間との接触を防ぐために、操作スイッチと対応する扉の配置のほか、動物の位置をしっかりと把握しておくことも重要です。そして、動物園の飼育係にとって安全対策と安全確認は、動物を健康に飼育することと同じくらい大事なものです。

 各動物舎の設備や構造は、過去の経験や知見を踏まえたうえで、動物飼育と安全面を両立して設計されています。

 ふだんあまり注目されることのない動物舎や放飼場ですが、動物種ごとの特徴に合わせたさまざまな工夫や設備、構造などがあります。今回は、外からあまり見ることができないアフリカゾウ舎の扉をご紹介しましたが、見える範囲でも動物舎や放飼場の違い、共通点を観察することで、動物園での新しい発見や気づきがあると思います。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 森〕

(2021年09月10日)
(2021年09月11日:昨年の記事へのリンクを追加)



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