多摩動物公園はおよそ5か月にもおよぶ長い臨時休園を経て、ようやく再開園となりました。みなさまに会えなかった期間、アフリカゾウの「アコ」と「砥夢」がどのように過ごしていたかをお伝えしましょう。
「アコ」(メス、 推定56歳)は繊細な性格の持ち主のため、落ち着きを欠きやすく、精神面・体調面で安定しないことがあります。体調には波があり、休園期間中も朝、放飼場に出るのをためらったり、一度も落ち着きなく体を動かし続けるといった常同行動(※)が目立つときがあったりしました。その原因ははっきりとはわかりませんが、アコから見えない場所での工事(ふだんから聞き慣れていない大きな音や振動)もアコを不安にさせる要因のひとつと考えられます。
このような不安定な時期は、日中でもアコの体を休ませようと、以前も過ごしたことがあり、放飼場よりも安心して過ごせる屋外通路(寝室から放飼場へと繋がる通路)で過ごさせました。また、アコにとって少しでもプラスになるように、えさの配置を工夫したり、アコが好んで食べる植物を、飼育係自ら園内から採取し、与えることもあります。体調がいいとでも、その調子を崩さないように放飼場への出し入れの時間を調整することがあります。
これらの対応に取り組んだ結果、休園となった2020年12月以降も第1放飼場で過ごすことができ、再開園後も元気なアコの姿をご覧いただけています。ご来園の際は、そんなアコを優しく見守ってあげてください。
(※)常同(じょうどう)行動:目的を持たず、同じ動作を反復して繰り返す行動
放飼場で過ごすアコと砥夢(左:アコ 右:砥夢)
一方、「砥夢」(オス、12歳)は、4月にある体調の変化が見られました。食欲の低下、消化不良便の排泄、夜間の横臥(おうが)時間の減少などが見られたのです。
砥夢はここ数年、3月頃になると行動が荒くなる傾向があったため、こうした変化からマストに入ったのではないかという考えが頭をよぎりました。まだ解明されていませんが、マストとは性成熟を迎えたオスが定期的に攻撃的になる行動を言います。繁殖行動に関わるとも言われ、性ホルモンのテストステロンの値が上昇します。また、側頭腺(そくとうせん)からの分泌液、攻撃性の増加、頻尿、食欲不振・減退など、特徴的な行動や体調の変化が報告されています。今回の砥夢の場合は、飼育係に対して攻撃的な行動はとりませんでした。テストステロンの変化は、園内の野生生物保全センター係で継続してデータを集め、調査しています。5月下旬には食欲・便状も回復し、現在は元気に過ごしています。
このたびの砥夢の体調の変化がマストによるものだとは言い切ることはできません。しかし、飼育係が今後も成長を続ける砥夢を観察し、データを蓄積していくことで、マストの解明に役立つと考え、引き続き取り組んでいきます。
6月4日から、1日2000人の事前予約制ですが再開園し、ようやく動物たちに会える日々が戻ってきました。新型コロナウイルスの影響はまだ続きますが、感染拡大防止を徹底していただき、ぜひ動物たちに会いにいらしてください。
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アコと砥夢の食事風景 |
放飼場で青草を食べるアコ | 食欲も回復し口いっぱいに青草を頬張る砥夢 |
〔多摩動物公園北園飼育展示係 山本〕
(2021年06月25日)