2020年末からの長い臨時休園期間を経て久しぶりにツキノワグマの「タロコ」(メス)をご覧になった方の中には、その姿が休園前とはずいぶん変化していると感じた方がいらっしゃるのではないでしょうか?
実は、タロコは臨時休園期間中に多摩動物公園へ来てから初めての「冬眠」をしていたのです。上野動物園にいたころには冬眠を経験し、出産・子育てをしたことがあったのですが、2014年に多摩へ来てからは冬でも毎日放飼場へ出ていました。タロコといっしょに来園した「ソウ」(オス)は冬になっても活動量は落ちないのですが、タロコは毎年冬前に自然と太ってきて、寒い時期には活動量が格段に落ちることが観察されていました。
2020年も11月中旬ごろから動きが鈍くなり、えさを食べる量が減少し、下痢をするなど便状が安定しない状態になりました。動物が胃腸の調子を崩したときにはえさを与えずに胃腸を休ませる方法をとることがあります。タロコにえさを与えなければ胃腸の負担を減らすことができますが、エネルギーを摂取することができないとますます活動量が減ることも予想されました。上野での「冬眠チャレンジ」では事前にえさを増量して体に栄養を貯えてから冬眠に入ります。今回のタロコにはその準備期間はありませんでしたが、すでに冬眠できる体型だと判断し、巣材となるワラや乾草を置いて暗くした部屋を使って、2021年1月20日から「多摩版・冬眠チャレンジ」がスタートしました。
窓や扉に板を張り暗くした部屋。
板をずらして中のようすを確認できます
冬眠用の部屋へ移動したタロコは翌日から徐々に丸まった姿勢で寝る時間が増え、呼吸数は1分間に4~6回程度(通常の睡眠時は8~9回)と少なくなりました。冬眠中のツキノワグマはいっさい排便をせず、えさも食べないと言われています。今回のタロコは時々起きて排便することがあり、えさを要求することもあったので、少量の煮たサツマイモとシラカシの枝葉を与えました。この排便と少量のえさを食べる行動は2か月弱続き、その間の便状はとても良好でした。
巣材の上で顔をあげるタロコ
(撮影日:2021年2月23日)
3月中旬から起きている時間が徐々に長くなり、食欲も出てきたので、3月24日からは毎日えさを与えるようにしました。そしてしっかりと覚醒し、動きも活発になってきた5月10日、112日ぶりに放飼場へ出たタロコはすっきりとした体型になり、別人ならぬ別熊のように見えました。チャームポイントのあごの白い毛を目印に、スリムになったタロコをぜひ確かめてください。
あごの白い毛で見分けてくださいね
(撮影日:2021年6月5日)
〔多摩動物公園南園飼育展示係 齋藤〕
(2021年06月18日)