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キリンの移動ってどうやるの?
 └─2021/05/28
 寒くも暑くもない春と秋は温度調節をする必要もなく、動物の移動にとても適した時期で、キリンの移動もこうした時期におこないます。

 多摩動物公園では約50年の間に100頭以上のキリンを国内外の動物園に移動させてきました。過度なストレスをかけず、事故なくケガなく安全にキリンを移動させる──これまでの経験から得たキリン移動のノウハウをご紹介します。

 キリンの移動は基本的に1度に1頭のみです。移動対象年齢は3歳くらいまでで、成獣ほど体は大きくなく、頭までの高さは4m以下であることがほとんどです。多摩動物公園ではつねに10頭以上の群れで生活しているため、まずは群れから離れて1頭になることを練習しなければなりません。


最年長のアオイ(奥)とユン(手前)

 群れとは別の小放飼場(パドック)に分けるために、最初は落ち着いた成獣1頭をあらかじめパドックに入れておき、移動予定の個体を安心させ、続いて好物の枝葉などで群れをコントロールし、なんとか扉を通過させて2頭を同居させます。その後は好物のえさを与えたあとに群れに戻す、ということを繰り返すと、群れの中にいても、扉を開けただけでみずから入ってくるようになります。


部屋の中で好物の植物を食べるユン

 その次は1頭で部屋に入る練習です。外よりも狭い空間なので警戒心も強くなるのですが、ここでもやはり、同居する成獣といっしょに入って慣らしていきます。部屋の中に入ったら好物のえさが食べられることを覚えさせると徐々に警戒心が解け、1頭だけで部屋に入ってくるようになり、室内に収容できるようになります。ここまでに約2週間かかります。


ユンが箱の中に入るよう、大好きなペレットで誘導

 最後は部屋の外に輸送箱を設置して箱の中に入る練習をします。箱の重さは約1トンありますが、動かないように固定します。地面が少し傾斜しているので、箱の底に板をはさんで水平にし、箱の中に立っても違和感がないようにします。入った箱の先に好物のえさをつけて誘導し、採食時間が長くなると中にいる時間も長くなり、次第に箱に慣れてきます。箱の中が安全だと理解してもらうことが重要で、そうするといざ移動当日に箱に閉じ込めても暴れたりせず、落ち着いた状態でいてくれるのでケガすることはありません。この作業にも約2週間かかるので、のべ約28日を要します。

 私たちの仕事はここまでですが、トラックに載せて運ぶ動物輸送業者も経験豊富なので安心して送り出すことができます。あとは移動する距離や時間に応じて、道中で食べるえさを“お弁当”としてトラックの荷台に載せたら手を振って別れを惜しみつつ、新天地での幸せを祈るのみです。

〔多摩動物公園 清水〕

(2021年05月28日)



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