多摩動物公園の正門を入ってまっすぐ進むと右手に開けた広場があります。ワシタカ広場と呼ばれるこの広場の石垣にはニホンイヌワシ繁殖用のケージが設置されています。ここで今年(2021年)、オスの「青嵐」(17歳)とメスの「楓」(7歳)が2羽を子育て中です。
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2羽のひな(2021年4月11日) | 後から孵化したひなにメス親が給餌中(4月11日) |
昨年秋、繁殖に向けてケージに巣材を入れたところ、1月から巣作りが始まり、2月2日に1卵、2月8日にもう1卵の産卵がありました。飼育下ではこれまで1卵目の4日後に2卵目が産み落とされることが多かったのですが、今回は6日後の産卵となりました。
ニホンイヌワシは野生では2羽孵化しても1羽しか育たないことがほとんどです。先に生まれたひなは早く成長し、後から生まれた個体よりも大きく、きょうだい同士の闘争の結果、先に生まれた個体が育ちます。親鳥は、ひな同士の闘争をとくにいさめることもせず、また、給餌の際もねだり方の強い1羽目にまず与えます。えさが十分に確保できないときに、1羽だけでも生存できるしくみなのかもしれません。
一方、飼育下ではえさが十分あるため、これまで何度も2番目の個体が育っています。しかし、今回は2番目の産卵が6日後だったので、いっそう体の大きさに差が出てしまい、2羽目が育つのは難しいだろうと思われました。
親鳥は、2卵目の産卵後に安定して抱卵するようになります。その影響を受け、2卵目の孵化は1日早まるのですが、今回の孵化日は3月16日と3月20日でした。産卵間隔が6日だったところ、2日早まって4日となりました。
えさは十分あるので闘争は見られませんでしたが、2番目のひながなかなかえさを食べられません。それでも親鳥は1番目のひなが食べ終わって落ち着いた後に、後から生まれたひなのために餌をさらに小さくして与えていました。
その後、きょうだい間で軽い闘争が見られるようになり、3月28日には先に生まれたひなが伏せているもう1羽のひなに対し、突然くちばしで何度もかみつきました。闘争は給餌前など、2羽が頭を上げて向かい合うタイミングで起こることが多いのですが、このとき最初のひなはすでにえさをもらった後で、空腹ではなかったと思われます。急な攻撃の理由はわかりません。攻撃されたひなは巣の隅まで逃げて難を逃れました。巣の隅まで離れてしまうと、親はそのまま面倒を見なくなるかと心配しましたが、戻ってきた母親の楓は離れたところにいるひなを引き寄せ、胸の下に入れました。
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2羽のひな(2021年4月15日) | 後から孵化したひな(4月15日) |
4月に入って暖かくなると、親鳥は日中、遠くの止まり木から見守るようになりましたが、ときおり給餌のため餌を巣へ運んだり、青葉のついた枝をくわえて頻繁に巣に運び入れ、ひなのまわりに置いて巣を整えたりしています。
2週齢を過ぎ、ひなには闘争もあまり見られなくなり、おたがい寄り添ってのんびり寝ている姿も確認しました。巣立ちまでは70日以上かかりるのでまだまだ長い子育てですが、このペアとしては久しぶりの繁殖です。このまま無事に2羽が育つことを期待しています。
〔多摩動物公園野生生物保全センター 小島〕
(2021年04月22日)