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アジアゾウの「個性」に合わせた誘導トレーニング
 └─2020/11/06


 多摩動物公園の新アジアゾウ舎は現在非公開ですが、室内ではさまざまな作業に合わせてゾウを移動をさせています。複数の担当者がかかわり、動画のような誘導作業を毎日何回もおこないます。一見何でもなさそうな光景ですが、ゾウを飼育するうえで重要な作業です。簡単なようで奥が深い、ゾウの「誘導」についてご紹介します。

 新アジアゾウ舎には3つの部屋があり、オスの「アヌーラ」とメスの「アマラ」がそれぞれ別の部屋で過ごしています。多摩動物公園ではゾウと人が同じ空間に入らない「準間接飼育」とよばれる飼育方法を採用しているため、飼育係がゾウを誘導して別の部屋に入れ、空いた部屋を掃除します。

 基本的な誘導作業の場合、部屋と部屋を区切る扉を開けておき、冒頭の動画のように人間が声や音を出してゾウを呼び寄せ、目指す場所にゾウが来たらごほうびとしてえさを与えます。区切りの扉は遠隔操作で閉めますが、ゾウがもとの部屋に戻らないよう、扉がまだ動いている間はえさを与え続けて、給餌者の近くに引き付けておきます。すんなりいかないこともありますが、2頭のゾウそれぞれの個性に合わせて試行錯誤しています。

アマラ

 アマラはほかのゾウより神経質なところがあり、周囲の物音などの刺激に敏感に反応します。また、今年の5月に引っ越してきたばかりなので、環境にまだ完全には慣れていないためか、誘導する場合も、人間の近くに引き付けておく場合も、うまく応じないことがたびたびあります。この場合、声のタイミングやえさを与えるペース、えさの種類を少し変えるだけで反応がよくなることがあります。同じえさでも厚さなど切り方を変えることで選択肢を増やすことができます。


ある日の誘導用のえさの一部。リンゴは切り方は4種類、サツマイモの切り方は2種類あります

 それでもうまくいかないときは部屋を往復させて誘導に慣れさせたり、ルートを変えたりする場合もあります。いずれにしてもゾウの反応を観察し、より有効な方法を選びます。

アヌーラ

 一方、アヌーラは2017年から新アジアゾウ舎でくらしているため施設に慣れており、落ち着いたようすで誘導に応じます。しかし、白内障のため目が悪く、アマラ以上に「音」が重要です。アヌーラを誘導したり、目の前に引き付けておくときは、水を張ったバケツにえさを投げ込み、来てほしい場所をわかりやすく教えます。


移動先の部屋でアヌーラを引き付けているところ

 ときどき進行方向に迷うこともありますが、そうしたときはアヌーラの近くにリンゴを投げ落とし、音で方向を教えます。ゾウの飼育管理を充実させるために、少しでもスムーズな誘導や引き付け作業ができるよう取り組んでいきます。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 松本干城〕

(2020年11月06日)


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