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続・おっぱい泥棒パルタ──検証!ウルイはなぜおっぱいを盗まれた?
 └─2020/10/16
 前回お伝えしたムフロンの“おっぱい泥棒”について、今回は、被害者「ウルイ」の立場から、その真相を探ります。

・前回の記事:おっぱい泥棒パルタ──お乳を盗むムフロンの子ども(2020年9月22日)

検証① 本当に泥棒?

 まず私は、「ウルイは本当におっぱいを盗まれたのか?」を検証することにしました。母親ではないメスのお乳を飲んだから泥棒、と決めつけるのは、少し軽率です。なぜなら、哺乳類の一部に血縁者が子の世話を手伝う「ヘルパー」の存在が知られているからです。

 そこで、パルタとウルイの血縁関係を調べると、パルタから見てウルイは、「いとこおば」ということがわかりました。つまり、パルタの母親「ミミ」とウルイは「いとこ」だったのです。一見、泥棒のように見えたパルタの行動は、じつは泥棒ではなかったのでしょうか?


検証② おっぱいを分け与えた?

 ウルイはおっぱいを泥棒されたのか? それとも分け与えていたのか? その答えが隠された動画があります。じつはすでにご紹介した、前回のおっぱい泥棒の動画です。


【動画:2頭のムフロンの子が1頭のメスの乳を飲んでいる】

 動画右側の子どもがパルタです。パルタがお乳を飲むときの位置にご注目ください。ウルイの子どもがウルイの「脇腹」で飲んでいるのに対し、パルタは「股の間」で飲んでいます。このことについて、小長谷有紀さんは、〔乳を盗み飲もうとする子どもは〕「母畜に匂いを嗅がれると頭突きをされるので、下腹部にもぐりこむことは避けて、臀部からもぐりこもうとする」と述べています。私が見ているかぎり、パルタはいつもウルイの股の間からお乳を飲んでいます。これは、パルタがおっぱい泥棒を企てている動かぬ証拠です。やはり、「パルタはおっぱいを盗んでいる」と考えるのが妥当のようです。


ウルイのお乳を飲むパルタ。その位置に注目


検証③ どうしておっぱいを盗まれた?

 それではなぜ、ウルイはおっぱいを盗まれてしまったのでしょうか? じつは、ウルイは最初からおっぱいを盗まれていたわけではありません。出産直後のウルイはパルタに対しておっぱいを死守していました。しかし、産後10日目ごろ、ウルイは体調を崩し、自分の子どもにさえも授乳を拒むようになりました。授乳拒否から約20日後、再び授乳するようになったウルイにパルタが忍び寄り、“おっぱい泥棒”が始まりました。

 このことから私は、「体調不良が原因で、泥棒を追い払う体力がなく、おっぱいを盗まれた」というのが、事の真相ではないかと考えました。その根拠として、授乳再開後のウルイは、子どもの体の匂いを嗅ぐ行動が“手抜き”になった印象があります。


パルタ(左)とウルイ(右)。2頭の関係やいかに

 今のところ、私が観察できたのはここまでです。なぜ、双子のうちパルタだけが泥棒に成功したのか。母親のお乳があるのに、なぜウルイにも手を出したのか。おっぱい泥棒の真相まだ謎ばかりです。

引用文献:小長谷有紀(1999)「モンゴルにおける出産期のヒツジ・ヤギの母子関係への介入」、民俗学研究

〔多摩動物公園南園飼育展示係 齊當史恵〕

(2020年10月16日)



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