ニュース
サル山最高齢、メス「ミドリ」の話
 └─2020/06/12

 昨年(2019年)の秋、ニホンザルへの給餌のためにサル山まで来た私は、“寒くなってきたので、コザルたちももう飛び込むまい”と思って水を抜いたプールの底に、ピクリともせずに横たわるミドリの姿を確認しました。

 以前からミドリは、新陳代謝の悪化により薄くなった体毛のため、雨が降ると自分から狭い寝室に入って雨宿りをしたり、担当者がえさをまいても、後ろ足が踏ん張れないため斜面をすんなりとは降りられず、他の個体に遅れながら、遠回りになる階段を使うなど、“老い”を感じさせる行動が数年間続いていました。

 私はすぐさま“ミドリはとうとう逝ってしまった”と思い、サル山に入ってミドリが好んで使っていた階段を上って、水のないプールの底に横たわる彼女の傍らにひざまずきました。肩に手を置くと“呼吸している?”……そう一瞬考えた私は、治療や入院もあり得ると思い、彼女の両前肢を背側から取って体を持ち上げました。すると、一呼吸置いた後に、もぞもぞと抵抗をはじめ、顔をのぞき込む私に威嚇の声を上げるなど元気そうであったので、体の各部にケガのないことを確認してから群れに戻しました。

 つまりミドリは、ぽかぽかと温かい小春日和の日差しを浴びて、たっぷりと温まったコンクリートベッドの上で、気持ちよくうたた寝をして前後不覚になっていたのです。


ミドリ、2020年5月31日撮影

 ミドリは1987年5月12日、メス「フミ」の第3仔として生まれ、2020年5月で33歳になりました。多摩動物公園のサル山家系図を参照すると、フミの母親はフシと分かります。ちなみにニホンザルの父親は育児に関わらないため、家系図はメスを中心に書かれます。フシは1968年に小豆島から搬入され、群れの始まりとなった個体のうちの1頭なので、ミドリはこの群れの第3世代になります。

 1992年、ミドリは5歳のときに初産を経験し、2003年までの11年間に9頭の子を育てました。そのうち、2001年生まれのメス「スボヤ」がフシの家系を継承しました。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 由村泰雄〕

(2020年06月12日)


ページトップへ