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しっかり食べてすこやかに──チンパンジーたちの食事情
 └─2020/02/07

 「食べることは生きること」という言葉を知っていますか? さまざまな解釈がされるこの言葉ですが、根底にあるのは、生きものにとって「食」を通じて必要な栄養を摂ることは必要不可欠な活動であるということだと思います。

 えさの準備や採食状況の観察など、えさや栄養に関する管理は飼育係の重要な仕事のひとつです。今回は多摩動物公園で飼育係がチンパンジーたちと一丸となって取り組んでいる栄養管理についてご紹介します。


カブを食べる「ケイ」。苦手な野菜も手で渡して与えると食べることがあります

 栄養管理を考えるうえでまず知っておくべきことは食性、つまりえさの種類や食べ方から見た習性です。では、チンパンジー本来の食性とはどのようなものなのでしょうか。チンパンジーは多種多様なえさを食べる雑食動物です。野生のチンパンジーはおもに果実や若葉、若芽を食べてくらしていますが、昆虫や小動物、卵などを食べることもあります。

 動物園でも野生でのえさを再現できればいいのですが、これは不可能です。というのも、果実は果実でも、野生の果実と畑などで栽培されて人間が食べるために流通している果物では、その栄養成分が大きく異なるからです。

 かつては、野生のえさの内容を動物園でも再現することが重要と考えられており、果実を食べるチンパンジーには果物を与えるという管理方法が主流でした。しかし現在、えさの内容ではなく、野生のえさに含まれる栄養成分に近くなるように動物園でのえさを組み立てることが重要と考えられています。果物に比べ、野生の果実に栄養成分が近い野菜をチンパンジーのえさとして選択するという取組みが海外の動物園を中心におこなわれており、多摩動物公園でもその取組みを実践しています。

 果物の給餌をひかえ、おもに野菜を与えることで得られる効果は多くあります。たとえば、採食についやす時間が多くなり、野生での生活に近くなることや、体格がしっかりしてくること、また免疫力が向上することなどです。他にもチンパンジーがより活発になるなど、行動に変化が現れたという報告もあります。

果物を野菜に置き換えるだけでなく、さまざまな種類の枝葉をなるべくたくさん与えるように心がけています
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 このように栄養管理がもたらすメリットはたくさんありますが、せっかく野生のえさの栄養成分に近くなるように給餌内容を整えても、チンパンジーたちがしっかりと食べてくれなければ意味がありません。チンパンジーたちが残さずにえさを食べてくれるよう、私たちは日々頭を悩ませ、食べてもらう工夫をしているのです。

〔多摩動物公園北園飼育展示係 伊藤香緒里〕

(2020年02月07日)


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