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タヌキと私の “だるまさんがころんだ”
 └─2019/11/15

 「タヌキを知ってますか?」と聞かれると、ほとんどの方が「知ってる」と答えると思います。ぶんぶく茶釜やかちかち山など、タヌキは昔話でもおなじみの動物です。

 では、「タヌキを見たことはありますか?」と聞かれて手を挙げる方はどれくらいいるでしょう? 意外に少ないのではないでしょうか?


いつでも姿を見せてくれる「トウブ」(メス)

 日本には北海道にエゾタヌキ、本州・四国・九州にホンドタヌキという2つの亜種が分布しています。多摩動物公園では4頭のホンドタヌキを飼育しています。

 ホンドタヌキは里山に生息し、昔から人の近くでくらしてきた身近な動物でした。高度成長期を経て、タヌキがすんでいた里山はだいぶ少なくなってしまいましたが、いなくなったわけではありません。今も公園や河原、家の軒下など東京都内でもたくさんのタヌキがくらしています。

 でも、タヌキがノラ猫のように家のまわりをうろうろしているのはあまり見かけません。なぜなのでしょうか? 一つは、タヌキが夜行性の動物だということが挙げられます。昼間はねぐらにいて、暗くなってからえさを求めて動き始めるので、なかなか姿を見ることができないのだと思います。


来園者には姿を見せてくれるけど、担当者はなかなか見られない「マナ」(メス)

 もう一つはタヌキの警戒心の強さです。タヌキは警戒心が強く、なかなか姿を見せてくれません。私は今年(2019年)4月からホンドタヌキの飼育担当をしていますが、最初の難関は個体を覚えることでした。しかし、覚えるために特徴をつかもうと思っても、なかなか姿を見せてくれません……。前任者にもらった個体識別用の写真を穴が開くほど見て、姿が見られたときには写真を撮り、前任者に「これは誰?」と聞く毎日でした。

 「えさの時間に出てくるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、タヌキは藪の中からじっとこちらをうかがい、私がいなくなるとようやく姿を現します。そこで私は、一度立ち去ったふりをして陰からこっそり覗き見るという、はたから見ると「あの人何をやっているんだろう?」と思われるような行動をとっていました。

 そんなタヌキと私の “だるまさんがころんだ”(?)も、最近少しタヌキが慣れてくれたのか、おそるおそるではありますが、私が園路にいても出てくるようになりました。ただし、目が合うと逃げてしまうので、私は見ていないふりをしつつ横目で見るだけです……。

 みなさんがタヌキを見に来たとき、飼育担当者(私)がタヌキ山の中にいたら、私がいなくなるまで待っていてください。その途端、そろそろと姿を現すタヌキを見ることができると思います。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 高村里美〕

(2019年11月15日)


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